リトル・バイ・リトル | ナノ

「ハンジのやつ…本当人遣い荒いんだから…」

ぶつぶつと文句を言いつつ、命じられた通りの資料を次々と積み上げていく。研究熱心な親友に頼まれてここ資料室まで資料を取りにきたはいいが、そのあまりの多さに匙を投げたくなった。けれどハンジの勢いに圧され手伝うことを了承してしまったのは私だから、せめて頼まれたものだけでも持ち帰らなければならない。

「えぇと、あとは…」

走り書きで埋められたメモと照らし合わせ、必要なものを積む。あとは最後のひとつだ。
けれどここで問題が発生。メモの最後に書かれた資料は、あろうことか棚の一番上に乗っていた。

「んんー、届かない…」

きちんと並べられておらず棚の一番上に無造作に置かれた資料を、どうしてわざわざ使うのか。ハンジの思考は理解できないけれど必要と言われたのなら仕方ない。私は近くにあった椅子を棚の近くまで移動させ、その上に乗った。しかし背伸びをしてもあと少しのところで届かない。もう少しだけ背が高ければきっと届いたであろうに、そのあとちょっとが足りない。
くそう、ハンジのやつ。悪態をつきながら諦めてしまおうと思ったが、やはり私の良心がそれを許さなかった。しょうがない、最終手段だ。動くたびに揺れる不安定な椅子の上で、小さくジャンプをして手を伸ばす。バランスを崩さないよう静かにジャンプをしていたが、いい加減苛立ってきたのでついに私は思い切り跳んだ。その瞬間――、

「ナマエ、いるか?」
「っ、…う、わぁっ!」

扉が開いて誰かが入ってきたのと同時に、私は着地に失敗して椅子から転げ落ちた。

「ナマエ!?」

大きな音を立て床に倒れ込んだ私の元へ駆け寄ってきたのは、リヴァイだった。驚きのあまり言葉を失う。そんな私の上からは、取り損ねた資料がバサバサと降って来た。

「おい、大丈夫か?」
「え?あぁ、うん…大丈夫…あの、何でリヴァイがここに?」

彼は旧本部で特別班の皆と生活しているはず。こっちにやって来るなんて珍しいことがあったものだ。

「エルヴィンに用があってな。ついでにお前の顔でも見て帰ろうかと思ったんだが、どういう状況だ?」
「あはは、ハンジに頼まれた資料を集めてたんだけどね、一冊届かないものがありまして…」
「で、椅子の上で跳ねたと?バカが…」
「ごめんなさい…でも、取れたから!」
「威張るんじゃねぇ。転けた奴が何を言ってんだ」
「うぅ、ごめん…」

今回はさすがに横着をした私が悪い。半ば呆れ顔の彼は小さく溜息を吐いて、なかなか立とうとしない私に目配せをする。資料も揃ったところだし、綺麗に片付けてハンジまで届けなくては。任務を思い出し立ち上がろうとする。
が、上手く立ち上がることができずに私はまた座り込んでしまった。途端に険しくなる、彼の表情。

「おい、どうした」
「リヴァイ、どうしよう…」
「あ?」
「足、痛いかも…」
「は…!?」

口に出した途端ズキズキと痛み出す足首。どうやら落ちた衝撃で捻ってしまったようだ。立ち上がろうとすると鈍い痛みが走る。
やばい、これはやばい。何がやばいって以前訓練中に捻挫をした時も、次の週に行われる壁外調査には参加させてもらえなかったのだ。全ては私を想う気持ちが故の判断であったし、その時は理解もした。けれど今回の壁外調査は何があっても絶対に参加したい。さすがにまだ日にちがあるし、大丈夫だとは思うが。

「立てねぇのか?」
「う、…」
「……ハァ」

何を言われるのかビクビクしていると、彼は大きな溜息を吐いた。そして腕を伸ばし、私の腰を引く。次の瞬間、ふわりと身体が浮いた。

「え、え!?リヴァイ、何、えっ!?」
「黙ってろ」

これはいわゆるお姫様抱っこというやつだ。
彼は私を軽々と抱き上げ、そのまま資料室を出る。待て待て待て、どうしてこんな恥ずかしい状況になっているのだろう。

「リヴァイ!歩けるから下ろして!恥ずかしいから!」
「さっきは立てなかっただろうが。黙っておとなしくしてろ」
「やっ、恥ずかしいってばぁ!」

こんなの物凄く目立つじゃないか。
抱き上げられたまま本部内を闊歩するなんて信じられない。おそらく立ち上がれなかった私を医務室まで連れていってくれるのだろうけれど、さすがにこれは恥ずかしいし誰かに見られたらたまったものではない。

「無理して歩いて悪化したら困る。医務室まで我慢してろ」
「…う、……はい」

けれど、わずかに優しい声色でそう言われてしまえばおとなしくするしかないじゃないか。私がその声に弱いのを知っているのか、はたまた無意識なのか。どちらにせよここは彼の過保護と優しさに甘えるしかない。
なんとか目立たないようにと、私は彼の胸元に顔を埋めるようにしてやり過ごすことにした。全く隠れられてはいないため、兵士にすれ違うたびに好奇の視線を感じる。

「リヴァイ兵長、と…ナマエ分隊長!?お、お疲れ様です!」
「あぁ」
「………」

「ナマエ分隊長、生きてらっしゃいますか!」
「おいナマエ、生きてるか」
「…生きてます」

「えっ、ナマエどうしたの!?リヴァイに姫抱っこなんてされてさぁ!ははは!」
「元はと言えばてめぇのせいだろうが、クソメガネ」
「リヴァイ、もういいから早く…」

やっぱり恥ずかしい。部下にも同期にもハンジにも変な目で見られたに違いない。ハンジの奴、もう書類なんて知らないんだから。
医務室へたどり着くまでの間、今日に限って沢山の人とすれ違った。そして私の足にしっかり処置が施されたのを確認したリヴァイが帰っていってから、今度は私に意味深な視線が向けられることになったのだ。

「リヴァイ兵長とナマエ分隊長ってデキてるんですか!?」

私達の関係を知らない部下にまで話が広がったのか、そう聞かれてしまった。もう恥ずかしすぎてしばらく誰にも会いたくない。

それを愛とは知らずに
130908
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