一目惚れ



戦場で一目惚れしたと言ったら彼は笑うであろうか。
どうしても彼を自分だけのものにしたくなった。
その美しい弓捌きをするしなやかな指先、真っ直ぐで純粋な瞳、明るい性格、一度聞いたら忘れられない声に、ただ惹かれていく。
「呂布だ、呂布が来たぞー!!」
仲間の魏兵が呂布の到来を知らせる。
「来たか…この砦は絶対に貴様になんかには落とさせねえ!!」
夏侯淵は自慢の弓を構える。
「お前が夏侯妙才か…?」
「そうだ。だとしたらどうする気だ」
先制するかのように呂布の頬に夏侯淵が放った弓矢が掠める。
掠めた部分から皮膚が裂け血が滲む。
「ほう、俺に傷をつけるとは中々の腕前だな…」
呂布は指先で血を拭う。
内心は喜びに溢れていた。
予想以上の彼の姿に態度に乾いていた心が潤う。
もっとその声が聴きたい。
もっと彼を知りたくなった。
呂布は笑みを浮かべた。
そして獲物を見つけた獣のような瞳で呂布は夏侯淵を見つめた。
夏侯淵はゾクリと悪寒を感じた。
この男は危険だ。
冷や汗が浮かび上がる。
「この俺を愉しませろよ…」
呂布は呟くと夏侯淵との距離を縮めるべく走り出す。
「くっ、このっ…」
素早く弓矢を放ったが簡単に呂布は避けてしまう。
そして目の前までに呂布が夏侯淵の側に寄ってきた。
そして呂布は弓を掴んでいた腕を掴むと自分のほうに引き寄せる。
「うわっ…何をする?」
突然の行動に訳がわからなかった。
わかるのは敵である呂布に抱きしめられている事であった。
「生意気だが、ますます気に入ったぞ…」
呂布は嬉しそうに笑う。
「俺をどうする気だ?殺すのか?」
「ふん、殺してしまったら楽しみがなくなるだろうが。俺は妙才の事がもっと知りたい…」
「呂布…、何を言って…惇兄助けて!」
夏侯惇に助けを求めようと声を荒げる。
「仲間を呼んだ処で俺に敵う者はいない。大人しく俺のものになれ」
耳元で甘く囁かれて躯がビクリと震える。
愛しくて堪らない。
やっと触れられた躯は触り心地好いものであった。
「嫌っ、離せっ、俺はお前のものになんかならないっ!」
必死に抵抗しようとするが呂布は腕に力を込めると身動きが取れない。
体格差がものが言うのか哀しいかな、夏侯淵は呂布の腕の中で大人しくなる。
「なんで、俺なんかを求める?」
涙ぐみながら夏侯淵は呂布に問い掛けた。
「簡単な事だ、俺がお前に一目惚れにしたからだ」
呂布の発言に夏侯淵は驚きを隠せなかった。
真っ直ぐ見つめてくる呂布に夏侯淵は顔を真っ赤に染めて顔を背ける。
「今更、手放す気なんてできん。俺はお前が欲しいだけだ。こんな戦なんて関係ない。妙才…好きだ」
更に呂布からの告白に夏侯淵は更に躯を固まらせた。
あの鬼神と呼ばれた男からの告白に夏侯淵はどうしたらよいか解らなかった。
「呂布…」
呂布の顔を見ると真剣な眼差しと見つめ合う。
「妙才、お前の気持ちが俺に向くまでは手を出さないと思っていたがやはり我慢できぬ」
そう言うなり呂布は夏侯淵に軽く口づけを落とした。
「んん…!」
突然の行為に驚き暴れるがそれは無意味に終わる。
戦場で仲間が見ているのに敵の将に抱きしめられた上に口づけまでされた。
恥ずかしくて穴に隠れたい気分であった。
呂布が口づけを止めると突然、夏侯淵の躯を抱き抱えた。
「うわっ、止めろ、何をする?」
「お前は俺のものだ。連れて帰るだけだ…」
「何言って、止めろ、俺は行きたくない!!」
ジタバタと暴れる夏侯淵を無視して呂布は赤兎に跨がると駆け出した。
「嫌だああ、惇兄助けてぇ〜!」
夏侯淵はそのまま呂布に掻っ攫られた形となった。
「ずっとお前は俺の側で生きてればいい…」
呂布はやっと手に入れた愛しい存在を強く抱きしめた。
「愛しているぞ妙才…」
呂布は再び夏侯淵に愛の言葉を囁いたのであった。





prev next

 

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -