惇淵
寒い…。
そう感じたのはある日の朝であった。
暖かくして寝ていても、やはり寒いものは寒い。
夏侯惇は寒さで目が覚めてしまった。
だが、目覚めるには少し早い刻だろう。
夏侯惇は隣で鼾をかいて寝ている夏侯淵を見た。
可愛らしい寝顔をして寝ている夏侯淵に夏侯惇は抱き寄せる。
夏侯淵の温もりを感じて幾分か、寒いとは感じられない。
だが、この温もりを手放したくはない。
夏侯惇は夏侯淵を抱きしめたまま二度寝を決めて瞼を閉じた。
二人っきりで寝るのは悪い気がしない。
愛しい者が側にいるなら尚更だ。
夏侯惇は夏侯淵が目を覚ましこの状況に驚きあたふたするかもしれないと思いつつも彼を離す気はなかった。
ただ、温もりが欲しかったからだ。
「淵、愛している…」
夏侯惇が呟く言葉に愛しい人は未だに気づく事はなく、眠っていた。
身体を丸ませて縮こまる姿はまるで猫のようだ。
大型の猫を抱いているような気分にもなる。
暫くの間は一緒に眠れればいい…。
夏侯惇はそう想い眠りについた。
安らかな刻が短くても、堪能できればいいのだから。
それから数刻後―――。
夏侯惇に抱きしめられたまま目覚めた夏侯淵は訳が解らなかった。
夏侯惇に抱きしめられたまま眠っていた事に。
夏侯惇の整った寝顔が目に映る。
夏侯淵はドキドキしながら見つめる。
流石に起こして良いのか解らずに固まってしまう。
だが、このままではいけないと夏侯淵が夏侯惇を起こそうとした時に、背後から抱き寄せられる。
夏侯惇が夏侯淵を離したくないのかぎゅっと力を込めてくる。
正確には温もりを失いたくないのか寒さ故なのかはわからない。
「………」
これでは起こすにも起こしずらい。
夏侯淵は仕方ないと溜息をついた。
夏侯惇が目覚めるまでは付き合ってやろうと思った。
「好きだせ、惇兄…」
夏侯淵は夏侯惇の額に軽く口づけをして横になり瞼を閉じたのであった。
家人が二人を起こしてくるまで一緒に眠っていたとさ。
終
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26th.Oct.2011
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