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Collaboration Novels
こちらは管理人と奈亜様(皐月様)とのリレー小説専用掲示板です。
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[6]嫉妬 (惇淵)
by 管理人
2011/03/17 01:07
張コウの言う通りに夏侯惇に想いを打ち明ければこの悩みも苦しみも無くなるのであろう。
だけど、夏侯惇がこの想いを受け入れるかどうかだ。
想いを打ち明けて夏侯惇が受け入れてくれるなら嬉しい。
だが、受け入れられない場合はどうする?
否定されたら、自分はいつものように接するなんて出来ない。
そんな恐怖感を感じてならない。
自分は夏侯惇の恋人として側にいたいと言う思いといつもと変わらぬ従兄弟として側にいたいと言う気持ちがある。
どちらかを取るかとなれば思い悩んでしまう。
それでは考えは堂々巡りで解決策はなくなる。
自分が勇気を出して告白すれば良いのだが、そんな勇気もない。
苦しくて仕方ない。
「張コウ…やっぱり、惇兄に告白した方が良いのかな?迷惑だったらどうしよう…」
夏侯淵は張コウに解決策を求めた。
あからさまに悩んでいる夏侯淵に対して張コウは少し微笑み解決策を探り出す。
暫くすると何かを閃いたようだ。
「夏侯淵将軍、良い提案があります」
「良い提案って何?」
夏侯淵は顔を上げ張コウを見つめる。
「告白が出来ないのであれば夏侯惇将軍が嫉妬するように仕向ければ良いのです…」
張コウは意地悪そうな笑みを浮かべた。
「夏侯惇将軍が夏侯淵将軍を好きかどうかはわかりませんが、嫉妬させて相手の出方をみる作戦でいきましょうよ!」
「でもどうやって惇兄を嫉妬させるんだ?」
「私と夏侯淵将軍が恋人の振りをするのです…」
「えっ、ええ―――っ!」
「しっ、声が大きいですよ将軍…」
張コウは慌てて夏侯淵の口を掌で塞いだ。
暫くモガモガともがいていたら張コウは掌を離した。
やっと解放された夏侯淵は驚きを隠せなかった。
そんな解決策を演技とはいえやらなくてはならないなんて。
「張コウ、本気か?他に解決策はないのかよ…」
「ありませんね」
夏侯淵の望みと裏腹に張コウはきっぱりと言う。
否定されたらやるしかないようだ。
「で、でもさ、惇兄が俺が好きだったらの前提だよなそれって…」
「将軍、気付いてないんですか?」
「なにがだ?」
とぼけるような訳がわからないような返事を返す。
「夏侯惇将軍、絶対に将軍の事が好きだと思いますよ…」
張コウのような第三者から見たら夏侯惇の態度はわかりやすい。
これが両思いではないのが不思議なくらいだ。
張コウは呆れて溜息をついた。
「でもさ、本当にやらないと駄目なのか?」
再度問い掛けてくる夏侯淵に対して張コウは更に問い返してくる。
「夏侯惇将軍の気持ち知りたくは無いのですか?」
「そ、それは…」
「なら、従って下さい。何、悪いような事はしませんよ…、夏侯惇将軍の前で恋人のようにわざと接すればよいんですから…」
「う、上手くいくかな?」
「私では役不足ですか?」
「いや、そうじゃないけど、惇兄が嫉妬する姿見たことないから想像できない…」
「ご心配なく。夏侯惇将軍は将軍の事を好いていると思いますよ…」
「ふうん、どっからそんな自信が出るんだが知りたいものだな…」
本人が気付いていないだけで夏侯惇は嫉妬している姿を垣間見ている自分にとっては普通であった。
ただ、演技でも夏侯淵の恋人としていられると思うと張コウは嬉しかった。
「今日の夕飯もご一緒に食べましょうね…」
「えっ、一緒にか?」
「当然、恋人として向かい合わせで、隣で食べても構いませんよ…」
「いきなりは、まだ心の準備が出来てないよ」
「前は急げです。夏侯惇将軍がいる時間帯を狙うのが一番ですね」
「張コウ、楽しそうだな…」
「ええ、それはもう、嬉しいですよ。将軍と一緒に食事を共に出来てずっと側にいられるんですから」
「まあ、ともかくだ。張コウの解決策に乗ってやるよ…」
此処までくるともう乗りかかった船だ。
やるしか道はなさそうだ。
「張コウ、お前は優しいな。でも張コウが傷つけたくない…」
夏侯惇の気持ちがわかった後で張コウはどうなる。
辛い思いを引きずるだろう。
そう思うと夏侯淵の胸がチクリと痛んだ。
「私の事は気にせずに笑って下さい…」
「張コウ、ありがとうな…」
夏侯淵は張コウに礼を言った。
そして二人は夕暮れ時に屋敷へと戻ったのであった。



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[7]嫉妬 (惇淵)
by 奈亜
2011/03/17 01:15
いつもの時間のいつもの場所。
規則正しい夏侯惇は、その日も同じ場所で夕食を取ろうと来ていた。
まだ、わりかし混雑していない時間帯で、数人の知り合いが中で食事を取ろうとしていた。
「夏侯惇殿・・」
振り返れば張遼が座って此方に向かって手を挙げている。
夏侯惇はその張遼に近寄ると、開いている目の前の席に座った。
夏侯惇の横に今しがた来たのか曹仁が腰を下ろす。
「奇遇だな・・」
夏侯惇が言えば、微笑んだ張遼は、注文を取りに来た女性に三人分の食事を頼むと、会話を始めた。
夏侯惇と曹仁が相槌を打ちながら聞いていると、後ろから従兄弟の声が耳に入る。
「どこに座るんだ、張コウ?」
その声に振り向いた夏侯惇はギョッとした様子で二人を見た。
張コウがほぼべったりと夏侯淵にくっついている。
照れもせずに、指先と腕を絡めている様子に、夏侯惇は固まった。
「見てください、将軍。あんな所に、夏侯惇将軍達がいらっしゃいますよ?」
指を指されて始めて我に返った夏侯惇。
慌てて張遼の方を向き直ると、置かれていた水に手を伸ばした。
「ぁ・・ああ・・」
若干棒読みな夏侯淵の言葉さえまともに聞けぬ状況で、異常に乾く喉を水を持って潤そうと試みる。
結局それさえも、失敗に終わってしまうのだが。
「よっ、惇兄、張遼、それに仁兄!」
やがて目の前に来た二人は、三人の前でも腕を組んだままだ。
張遼と曹仁は戸惑ったように二人を見ながらも挨拶を交わすが、夏侯惇は思わず無言になりつつ二人の絡んでいる腕を凝視していた。
「元譲、どうかしたのか?」
「あ・・・や、すまん。」
張コウと張遼が話し始めている隙に、こっそりと話しかけてきた曹仁の声に気を取り戻した夏侯惇は、痛む胸に気がつかない振りをしながら夏侯淵に笑顔を向けた。
「なんだ、淵。今日は二人なのか?」
言えば、夏侯淵はちょっと困った様に、それから一瞬苦しげに顔を歪めると笑顔を作る。
「ん?・・・ああ、そう・・。張コウと二人だな」
何処か焦ったような物言いは、平常心ではない夏侯惇では気がつけなかった。
「どうだ?一緒に食べんか?」
「すみませんが、今日は将軍は私と二人きりで食べるんです。」
夏侯惇の出した提案は、すぐに、張遼と話していたはずの男に却下された。
夏侯惇は、胸の内に広がる何ともいえない感情に、眉根を寄せたが、余裕のない夏侯淵はそれを見ていない。
二人の会話をこっそりと聞きながら観察していた張コウは、その二人の様子にため息をついた。




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[8]嫉妬 (惇淵)
by 管理人
2011/03/17 01:17
張コウは夏侯惇と夏侯淵の態度で直ぐさま実感した。
(本当に解りやすい…)
夏侯惇が動揺しているのはあからさまであった。
まだ腕を組んで指を絡めているだけでこの態度だと、それ以上の事をすればどうなるやら。
「将軍、私達はあちらの席で食事をしましょうか?」
「あ、ああ…」
張遼との会話を終えた張コウは夏侯淵を連れて別の席へと移動する。
夏侯惇は目だけで二人の姿を追う。
「あの二人、あんなに仲が良かったか?」
「さあ、でもあのような恋仲のように側に寄り添うとは何事でしょうか?」
曹仁と張遼は二人の先程の腕を組んで歩いている姿を思い出す。
「俺は何も知らない…あんなに仲が良かったなんて」
明らかに動揺を隠し切れていない夏侯惇は何度も水を口に運んでいる。
「今までは普通、でしたよな…」
「ああ…」
三人は離れた席で楽しそうに会話をしながら食事をしている二人を遠目から見つめ観察していた。
まさか、従弟に恋人が出来たなんて信じられなかった。
だが、夏侯惇は沈黙して出された料理を黙々と平らげても不機嫌そうな表情が消えない。
夏侯惇は怒っているのか、嫉妬しているのか。
それは張コウに対してか、はたまた夏侯淵に対してか。
それか両者に対してなのか本人しか知る術はなかった。
信じられない気持ちで夏侯惇はずっと夏侯淵を見ている。
二人は暫くして食事を終えると再び腕を組んで指先を絡ませると三人の側を通り抜けて立ち去った。
「やっぱり、あの二人、恋仲になっているのでは?」
「あんな姿を見る限りでは疑う余地はないな…」
張遼と曹仁は互いに会話を交わし確認しあう。
「俺は信じられん。昨日まではあんな風に恋人のように接しているのを見たことがない!」
夏侯惇だけが認めないと反論する。
まあ、気持ちはわからなくはないが。
「しかし、夏侯淵将軍は誰からも好かれるから。あれで恋人がいないのが嘘のようですよ…」
「淵にとっては遅い春が来たと言う事か?」
「そんな事があってたまるか。淵は俺のだ。あんな優男に取られてたまるかっ!」
夏侯惇は怒りを露にし反論した。
「元譲…本音がただ漏れだ。お前は妙才が好きなのか?」
「うっ、それは…あいつは俺の大切な従弟だ。好きとか関係ないだろ?」
「全く、素直ではありませぬな…夏侯淵将軍が好きなんですよね?」
張遼まで曹仁と同じ事を言ってくる。
「二人とも何を言っているんだ。俺はそんなんじゃないっ!」
夏侯惇は反論するが二人は聞き流している。
「でもまだくっついただけで何もしてないのでは?抱き合うぐらいや手を繋ぐ程度だろう…」
「何故そう言い切れる?」
曹仁の言葉に夏侯惇は直ぐさまに問い掛ける。
「妙才は恋愛に対してへたれた部分と恥ずかしがり屋な部分があるからそれ以上の行為は出来てないだろうな…」
昔から知っている夏侯淵の性格。
だからそんな予測が生まれるのであろう。
「どうする元譲、このままでは本当に妙才が張コウのものになるぞ?」
「それは嫌だ…」
「なら、素直に自分の気持ちを認めろ。そして、二人を追い掛けた方がいい…」
曹仁は夏侯惇の肩に手を置いた。
早く行けと目が訴えていた。
「すまん、いつかこの借りは返す…」
夏侯惇は二人に礼を言うと足早に食堂を後にして夏侯淵と張コウの元へと向かった。
そんな夏侯惇の追い掛ける姿を見守る二人は溜息をついた。
「結局、どうなるんでしょうかな?」
「まあ、我等は何もしないで見守るとしよう…」
「曹仁殿…」
「何だ?」
「夏侯惇将軍があんな風に嫉妬している姿は初めてみましたが随分と嫉妬深いですね…」
「殿の従兄弟だから似ているのは仕方ないだろう…」
曹仁の言葉に張遼は納得してしまった。
それから食堂を後にした夏侯惇は夏侯淵の部屋へと向かった。
足早になりながら、平常心を保ち冷静になりながらもやはり心内は嫉妬心でいらいらしている。
やっと二人の姿を見つけた夏侯惇は二人を呼び止めたのであった。



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[9]嫉妬 (惇淵)
by 奈亜
2011/03/17 01:27
「淵っ・・!」
大声に近い声で、夏侯淵の背に呼びかけた夏侯惇は振り返った従兄弟の表情に驚き、固まってしまう。
だがそれも一瞬の事で、腕を絡めている張コウから夏侯淵を引っ張ると自分の腕の中に収めて張コウを睨みつけた。
「貴様っ!一体如何いう事だっ・・!」
目に涙を一杯に浮かべていた夏侯淵。
それを見て、この男が自分の大事な従兄弟に何かしたのだと解釈した夏侯惇は怒りの声を上げたのだ。
「何のことですか・・?」
「貴様っ・・!」
とぼけたように言う張コウに、夏侯惇は今にも飛びつかんばかりの勢いで睨みつける。
その様子に、張コウは苦笑する思いではあったが、夏侯惇の瞳を冷徹に見つめ返した。
「これは私と妙才の問題です。部外者は黙っててくれませんか?」
字で呼んでいる事を強調して、夏侯惇に向かって首をかしげる。
この時、張コウは一芝居打つことを決めていた。
この方法が一番手っ取り早く、夏侯惇の想いを簡単に露見できるだろうと思ったのだ。
「なんだと・・!」
夏侯惇に抱きしめられたまま、全く今の状況を理解していない夏侯淵は混乱して固まっている。
そんな夏侯淵に指先を伸ばして、張コウは首筋に触れた。
途端、ビクンと反応を返す夏侯淵。
勿論、夏侯淵は驚きに体を震わせただけだが、その反応を夏侯淵はどう取ったのか、張コウの手を音高く叩き落とした。
「淵に触れるな!」
言われた張コウは鼻で笑う。
しかしその張コウの姿は、夏侯惇には怒りを押し殺しているようにしか見えない。
「貴方には関係ないでしょう?」
冷たい口調で張コウはそう言うと、もう一度夏侯淵の体に手を伸ばした。
今度はそれを夏侯惇は、自分の身を盾にする事で、張コウの手から夏侯淵を遠ざける。
「関係なくなどない!」
「なんですって・・?」
「淵は俺のものだ・・貴様には指一本触れさせん!」
力強く言った夏侯惇の言葉にも、怒りが滲んでいる。
腹を立てているのだろう、震えている声に、張コウは目を細めて夏侯惇を見ていた。
「たかが従兄弟のくせに、えらく勝手な物言いですね。言ったでしょう、これは、恋愛なんですよ?」
張コウはあくまで怒りを押し殺したような低い声を出して、夏侯惇の体に一歩近付くと睨みつけた。
夏侯惇はそんな張コウに、笑みを見せた。
「ああ、そうだな・・」
「は、ぁ・・・?」
やけに、すっきりしたような顔をしている夏侯惇に、張コウは素っ頓狂な声を上げた。
夏侯惇は、そんな張コウを気にする風もなく続けた。
「俺は淵を愛してる・・」
驚き、身を固めたのは張コウもであったが、後ろで守られるようにしていた夏侯淵も同じことだった。
「惇兄・・・今、なんて・・?」


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[10]嫉妬 (惇淵)
by 管理人
2011/03/17 01:29
夏侯惇の告白に夏侯淵は戸惑いと驚きであった。
「俺は淵を愛している。誰よりも…」
夏侯惇は振り向くと夏侯淵に囁く。
その言葉を聞いただけ夏侯淵は嬉しくて堪らず、ぽろぽろと大粒の涙を流す。
「え、淵、何故泣くんだ?」
夏侯惇は慌てて夏侯淵の涙を指先で拭う。
「俺、俺、嬉しくて…」
夏侯淵は夏侯惇に抱きつく。
夏侯惇は泣いている夏侯淵の身体を優しく抱きしめた。
「俺、ずっと惇兄の事が大好きだった…」
「淵、泣くな…お前に泣かれると弱いんだ」
「うん…」
夏侯淵は鼻を啜り、泣く事を止めた。
「やっと素直になりましたね。夏侯惇将軍…」
「張コウ…お前」
「夏侯惇将軍の気持ちを確かめたくて、夏侯淵将軍と私でお芝居をしたのです。偽の恋人として振る舞っていただけです…」
張コウは夏侯惇に説明する。
「では本当に何もないんだな?」
「ええ…」
夏侯惇は夏侯淵を見る。
「ごめんな惇兄、騙していて。俺、どうしても惇兄の気持ちが知りたくて…」
「そうだったのか…」
夏侯惇は納得するといつもと変わらぬ笑顔が浮かぶ。
「張コウ、すまなかったな…」
「まあ、貴方に謝られる事はしてないですけど、将軍を泣かした詫びとしてその言葉は受け取ります…」
「厭味な奴だな…」
「なんとでも、将軍を二度と悲しませないと誓って下さい」
張コウの言葉に夏侯惇は頷いた。
「ああ、淵を悲しませないと誓う…」
「将軍、よかったですね」
「張コウ、ありがとう。でも本当にこれで良かったのか?」
「私の事は気にしないで下さい。私は何よりも将軍が幸せになる事を祈ってますから…」
「張コウ…ありがとう」
夏侯淵は笑顔を浮かべた。
その笑顔を満足した張コウは二人を残して立ち去った。
その後ろ姿は何故か晴れ晴れしているようにみえる。
「惇兄…俺は惇兄の事が大好き…ずっと側にいて」
「ああ、俺も淵を愛してる。離せと言っても二度と離さないぞ…」
「うん、俺は惇兄から離れないから…」
二人は気持ちを確かめあい、ゆっくりと唇を重ねていった。
愛しい愛しい人。
貴方と一緒に居られるならどんな困難も立ち向かえる。
お願いだから、この手を離さないで。
夏侯淵は抱きしめてくる腕に縋り付き、夏侯惇の温もりを感じたのであった。






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