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「敵襲だ―――!!!!」



ドォォオオオン!!!!



ある火の国の外れ、雷の国との境にある屋敷で戦闘が繰り広げられる。
有力な忍が集う闇市場。
そこに舞う、ひとつの銀色。



「ギャァァアア!!!!!」



迷いもなく頭を切断し、木の上にスタ、と舞い降りた少女。
恐ろしく美しい銀色の髪が夜風になびく。
肌は白く、闇に映え、細い純白の刀が妖しく光る。



「相手は女一人だぞ!!何してやがる!!」

「隊長、あれは唯の女じゃねぇ…」

「あァ!?」

「見てくれ、あの面…!」

「…………、っ!」



木の上にたたずむ女の暗部を目をこらして見る。
銀色の髪と、…鳥が描かれた面。



「まさか…、幻の…銀弥…」

「へぇ、良く知ってるじゃねーか…」

「っ!!」



―――刹那。


視界にあった女の姿はなく、…甘い女の声がすぐ耳元でささやかれた。
刃物で首筋をスーっと撫でられる感触に、全身がゾクゾクと震える。
(ああ、殺される…。)
そう感じながらも身体は動き方を忘れたかのように硬直し、首筋に触れる刃と、耳に掛かる銀弥の息に全神経が集中する。



「逃げないのか?」

「…は…っ」



再び耳元でささやかれるその感触に、口から出たのは擦れた息だけ。
そんな様子にクスリと笑われた途端、右胸をえぐられ激痛が走る。



「ぐっ…ぐあっああ」

「お前は最後」



激痛に耐えながらも視界に入ったのは赤一面の眺望……血の海だった。
仲間だったはずの肉片が散乱する地獄絵図
動くものは、死体を燃やす、青白い炎のみ



「うっ…ぐ…」

「お前は尋問部隊に送るよ、自分の不運を恨むんだな」

「…ぎ、んや…」




胸に刺したままにしておいた短刀を引き抜いて銀鳥を呼ぶ。
致命傷を避けてはいるが、肺を貫通しているため苦しそうに喘ぐ男。
それを視線の端で見下ろしながら短刀にべったり付いた血を拭う。



「ぎんや、さま……」

「…何で“様”?」



なぜ敵である自分に“様”などと敬意を込めた呼び方をするのか。
奇妙に思って足で強引に面を外してみる。
…見たこともない顔だ。
だが、その瞳は俺をまっすぐ射抜いていた。



「拷問なら…あなたにされたい…っ」

「……は?」

「ぎんや、さま…っあ」



――――ドゴッ



「が、あ、あ…」

「…汚らわしい目で吾の銀弥を見るな」

「………オイ」



人質の頭を容赦なく蹴り飛ばした銀鳥。
確かにさっきの視線には悪寒が走るものがあったが、下手したら大事な情報を死なすところだ。



「何すんだよバカ」

「すまぬ、つい」

「つい、じゃねーよ。私情は挟むなって言っただろ」

「…あの不純な視線がどうも許せなかったのだ」



銀鳥を睨み付けながら人質を巻物へ一時封印し、散乱する死体を焼却する。
俺の強さを目の当たりにして、戦闘中にも関わらず俺を崇拝しきった敵が殺してくれとひざまづく。
これはよくあることで、初めは優越に満たされたものの、慣れてくれば気色悪いものでしかない。
“銀弥”の名が知られだした今では尚更今みたいな敵が増えた。



「俺も有名になったもんだな」

「…複雑だな」



そう呟くと、銀鳥は銀色の風をまとい人から姿を変える。
そこには銀色に輝く美しい鳥

彼は「銀鳥」と呼ばれる、妖魔である。




「血がまだまだ足りない。…ホント、三代目は何考えてんだか…。」

「これだけ殺れば十分だ」



銀色の鳥が軽く少女を睨むと、面の下で軽く笑い、彼の翼へひょいと飛び乗る。



「いくぞ、銀鳥」

「御意」








五年前に突如現れ、脅威の強さと美しさを誇る“銀弥”。
同じ暗部の者でさえ、彼女の姿を見た者はほとんどいない。
“銀弥”という名だけが流れ、恐れられ、敬われる。


…ただ伝えられているのは

―――銀色の髪と、鳥の面








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