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銀弥は残れ、という言葉で暗部編成の会議は締めくくられた。
皆が去ったあとの静寂が包む執務室で、俺と綱手とシズネの三人が言い様のない深刻な空気を携えて向き合う。



「本当のことを言いな、名前」



綱手の強い眼光が俺を射抜く。
暗部名ではなく本名で呼んでくるということは、つまり腹を割って話そうじゃないかという綱手の思惑なのだろうとわかる。
出来ることならば腹を割りたい。
俺を水の国に売ることを阻止し続け、いつでも俺を配慮してくれる綱手には、ただならぬ恩を感じている。
でも現実は複雑で、綱手の力では俺を守ることも、里を守り切ることも不可能だ。
ナルトのとった強硬手段がなければきっと遅かれ早かれ俺は水の国へ売られていただろう。

俺が守りたいものを守るために

…俺は初めて、綱手を欺く手段を選ぶ決断をした。



「それじゃあ、俺が嘘を吐いてるように聞こえるんだけど」

「あいつが九尾を取り返すために、わざわざお前を連れ去るとは思えない。気を失ったお前からその場で取り返すことが出来たはずだ」

「………」

「他に理由があるだろう?なぜ隠す」



綱手もバカじゃない。
ナルトが俺を連れ去った真の目的は、あいつが引き起こした暴動の全貌を打ち明けることだった。(ついでに俺をブチ犯すという目的もあいつの中できっちり計算されていたが)
だがあいつの暴動の理由を知れば綱手はきっと、「俺がナルトを脱獄させる」という可能性を危惧するだろう。だってあいつは俺のために行動したのだから。



「……俺を犯すためだ」

「「!」」

「そのためにわざわざ九尾を俺に封印させたんだと。魂織を使い果たした俺は銀鳥に助けを呼べないからな」



綱手が頭を抱えて机にがっくりとうな垂れた。
これが真の理由ではないが嘘ではない。
打ち明けることに躊躇いがあったが、こうでもしないと綱手はきっと納得しない。



「そうだったのか……」

「……黙ってて悪かった。出来れば誰にも言いたくなかった」

「…そうか。…そうだろうね。…悪かった。」

「………」

「………もう、あいつには言葉もないよ……」



シズネもショックが大きいようで、トントンを抱いたまま放心していた。
この二人は幼い頃からのナルトを知っているようだから、無理もなかった。
もう帰っていいという綱手の震える声に、俺は頷いて執務室を後にした。



「………」


今頃牢獄の中にいるだろうあいつを想像して、胸を掻き毟りたい衝動に駆られた。



ーーーガタンッ


瞬身の術で家の縁側についた。
その瞬間気が抜けたのか、抑えていた感情がどっと溢れて頭がどうにかなりそうで、雨戸に頭を打ち付けた。

泣きたかった。
でも今回は泣けなかった。
まだ、泣いてはいけないような気がした。


(お前は…それでいいのかよ、ナルト…)



どうして俺のために全部捨てた。
オレじゃお前を守れそうにないと、あんな辛そうな顔で言った。



「……ーーーっ」



木の葉を恨みながらも、愛して、悩んでもがいて、
やっと全部背負うって決意したお前を、そばで見ていて

支えてやりたいと…思うようになって
やっと副隊長になって支えてやれると思っていた。

そんな矢先に
あいつはそれを全部捨てたんだ。

俺のために…ーーー











ダン!と縁側の方で音がした。
家の中には名前の帰りを待っていたキバ、シノ、サクラ、暗部服のままのサスケ
それから紫鏡、烈火がいた。
名前が帰ってきたことは皆察したのだが、一向に中に入ってくる気配がない。
角度的に名前の姿が垣間見れる位置にいたのはサスケと紫鏡だった。
二人は口を固くつぐんだまま、縁側を静かに見つめている。



「………サスケ、名前は?そこにいるんだろ」

「ああ」



キバが小声で聞いた。
サスケはわずかに眉間を寄せて頷く。



「今日のところは、帰った方がいいかもな」

「……そうか」



その一言で名前の様子を悟った彼らは静かに腰をあげた。
ナルトの暴動の理由が気になって仕方がない彼らだが、名前の心を案じて今夜は引くことにした。
立ち上がったその時、名前がやっと彼らの気配を察したらしく、はっと顔をあげて部屋の中へ姿を見せた。



「来てたのか…」

「ああ。でも…流石にお前でも、疲れただろ…?今日のとこは帰るぜ」

「なぜなら、ナルトのことよりも、お前の心を案じ…」

「いちいち言わなくていいんだよバカ!」



キバとシノがいつも通りの調子を装って笑いかけてくる。
何も言葉を返さない名前に、じゃあな!と明るく手を振って去っていった。
サクラは困ったようにサスケの顔を見る。
今日のところは帰った方がいいとは言ったサスケだが、何か言いたげに名前を見つめている。



「サスケ、サクラ」



名前が呼んだ。



「お前らだけに話す。聞いてほしい」


一度もこちらへ目を向けることなく、名前は言った。
部屋に残っていた紫鏡と烈火は目を見合わせ、そっと部屋を退出する。
二人が出ていった後のドアが閉まる音が、静かな部屋の中に響いて、それから一呼吸おいて
一瞬、名前の眉間が切なげに寄せられた。
そして振り絞るように口を開く。



「ナルトがとった行動はすべて、木の葉と俺のためだ」

「!じゃあ、ナルトは…!木の葉に反逆したわけではないのね!?」



サクラが嬉々として縋るように名前へ問うたが、それに対しての反応はない。
思いつめるようにどこか一点を見つめたままだ。


「俺がこれからとる行動はすべて、木の葉のためだ」

「?」

「誰がどう判断しようが、俺が木の葉のためだと判断したなら、俺はその意思のままに動く」

「……」

「たとえ木の葉の意志に背いても、お前らを裏切ることになっても」



名前が初めてこちらを見た。
すでに腹が決まっているのだろう、その眼差しは鋭く二人を射抜いた。



「一体どういう…」

サクラが言いかけたとき、サスケが一言「そうか」と首肯した。
そしてサクラを連れて静かに去った。





「……………」



本音を言えば、俺は木の葉の忍として生き、死にたい。
あいつらとともに生きていたい。
それが本望だった、だけど俺はナルトを見殺しにできそうにない。
“どっちも欲しい”なんて無理だから、俺は木の葉の忍として生き死ぬことを諦めるしかない。

サスケは「そうか」と言った。
あいつを見捨てないといつかサスケに誓ったが、それも破ることになる。
それでも俺は…ナルトを救い出し、木の葉のために戦おう。

木の葉を守れるなら、それがいい。

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