18




銀弥が九尾を封じることに成功して、見守っていた忍たちは歓喜に湧いた。
どれほど強力な封印術なのかと疑問に持つ者も多かったが、銀弥だからこそ、それくらいの芸当も成せるのだろうと誰もが自分を納得させた。



「はぁ…はっ…」


流石に息が切れた銀弥は、魂織の激しい消耗により一時的に消えた銀鳥を名残り惜しむように左の腕を一瞥した。
だが九喇嘛のチャクラがなくなったとしても、ナルトは十分に戦う。
決して警戒は緩めずにすぐに視線を戻した。そしてぎょっとした。

危機的状況に少しは機嫌を曲げていると思っていたのに、随分ご機嫌な様子なのだ。


シュン、と風の如く俺の背後すぐに飛躍したナルト
この間にだいぶ回復したらしい息が整っているナルトに対し俺はまだ息が乱れた状態
間一髪で避けて、そして相手に隙が見えた
ーーーここだと思った。
刀を取り出すだけの猶予はないのでクナイを指で引っ掛けて、ナルトの喉元目掛けて腕を伸ばした。
それに気づいている筈なのに、それを防ごうともしないナルトに眉をしかめる。
このままではクナイがナルトの喉元を引き裂く。
元々それを狙って引いたクナイだ、このまま引き裂いて仕舞えばいい
どうせ引き裂けはしないのだから。ナルトが、こんなクナイ一つで喉を裂かれるわけが…


だが、ついに、クナイがその喉に触れても、ナルトが避けることはなかった。



「……………っ、」



俺は、右手に握ったクナイを震わせながら、その喉に触れさせたまま、固まっていた。
震えているのは恐怖だとか怒りだとか、そういう感情的なことではなくて、ただ寸のところで止めるのにぐっと力を入れて握り込んだだけである。
そうだと思いたい。
この喉を切り裂けなかった俺が、ただでさえ惨めなのに。



「甘いんだよ、お前はいつも…」



ナルトの手刀が後ろ首に当たった。
そこで俺の意識は途絶えた。








何故か銀弥隊長の攻撃をピタリと避けなかった槍刃…いや、うずまきナルト
そしていざ、彼の喉元にクナイの切っ先が当たるかというところで、隊長の手は止まった。
あれだけ激しい攻防を繰り広げていながら、いざ殺すとなれば躊躇われたのだろう。

敵に対しては残酷で、それとは裏腹に味方にはどこまでも優しい人だ

ナルトのことをまだ敵だと割り切ることが出来ていなかったに違いない。


手刀を打たれて気絶しぐったりと凭れかかった彼女の身体を受け止めた金色の男が、時空間忍術であろう印を組んで姿を消す様を、ただ力なく眺めていた因はかつて味わったことのないほどの強烈な絶望感に打ちひしがれていた。



「槍刃と銀弥がいない今、暗部の指揮はお前がとれ、因」



そう指示を下す五代目の表情にも絶望の色が浮かんでいるように見えた。
根の組織内と木ノ葉研究棟内の遺体の確認とその処理、ナルトの次の襲撃に備えた作戦立案、そして何より、銀弥隊長を抱えて一体どこへ消えたのか、うずまきナルトの行方を一刻も早く突き止めねばならない。
根の組織内に散乱する死骸の中に、囚われていた勝馬が倒れていたときは肝が冷えたが、大した怪我はなくただ眠らされていただけだった。他の根の者たちは一人残らず息の根を止められていたにもかかわらず。


「お前らが今後知り得る情報が、お前らの望むものと反対の方向へ働いたとしても文句はなしだ」

「それは、どういう…?」

ーーー「オレはオレのやり方で、銀弥を”守る”ってことだ」



かつて、あの男はそう言った。
あの言葉の意味するところは、つまり今回の事件を指していたのだろうか。
銀弥隊長を恨み、あの手この手で彼女を貶めようと企むダンゾウと、かつての木ノ葉崩しにて銀弥隊長を拘束し聞くも悍ましい愚行を犯した木ノ葉研究所の研究者数名…
銀弥隊長にとって害となる者たちだけが綺麗に切り取られるように抹殺されたのだ。


守るため、なのか…?



「どうした因、何かあるなら言いな」

「いえ…、すみません、気が動転して」

「頼むよ、動転してるのはみんな同じさ」



木ノ葉崩しの一件も、槍刃と我々衛班の間に交わした約束も、ご存知ない五代目様にこれを告げるのは躊躇われた。
因は口をつぐんだまま、指揮系統がずたずたに乱れた木ノ葉暗部の指揮を取りに戻ったのだった。







[ 372/379 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -