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あれから、名前は任務の招集がかかって奈良宅から去った。
そして翌日の出発時刻まで元第十班は「生きて戻る」という名前との約束のために、おのおの最高の準備を整えることに徹した。
五代目はこの事態を知らぬままだし、当然他の同期たちにも、この任務の難易度があの名前でさえも憚るほどに高いことを打ち明けられぬままの出発だった。



「苗字名前さえ売り飛ばしてりゃ、クーデターなんて支援せずに済んだのによ」

「まあまあ、五代目のご意思だって言われたら、何も文句は言えないだろう」

「水の国って相当厄介な国なんだろうな。いっそ国ごと消し飛ばしたほうが世のためなんじゃねぇの」




支援軍は総勢九人
隊長はアスマ。隊員はシカマル、いの、チョウジに加え、月光ハヤテ、そして先日名前の横っ面を殴りつけた上忍男、そしてその他上忍が三人
アスマたち四人以外は誰もこの任務の生存率の低さを知らない。暁との接触がほぼ間違いなく予測されることを知らない。
だがとりあえず「クーデター支援」という重大性の高さは心得ているので、それなりの緊張感はあるらしい。
そして苗字名前の罵倒が絶え間なく飛び交う。



「あの子の顔をあれだけ容赦なく殴っておいて、まだ気が済まないんですか」



ハヤテが言った。
彼は男が名前を殴る現場に居合わせ目撃していた分、男に対する嫌悪が強かった。



「顔を殴って済む問題か?なあハヤテ。あの女一人と国を天秤にかける五代目も理解できねぇが、それで平気に暮らしてるあの女はもっと理解できねぇ。反吐が出るぜ」

「だからってあなたが殴ったところで何の解決にもならない」

「だが皆の気がスカッとしただろう!皆に代わってオレが制裁を下したんだよ」



ハヤテは顔をしかめて沈黙した。
そしてそれを終始黙って聞いていた元十班メンバーも、名前への罵倒に怒りを募らせながら、きっと彼女を救ってみせようとこの任務の成功をさらに強く誓う。



―――スタッ、



顔をしかめる彼らと、
ははは、と笑い罵倒する男たち―――その御前に飛び降りたのは銀色

鳥面の銀弥だった。



「なっ!?なぜ貴女がここに…!?」



男のうちの一人が興奮したようすで声を上げた。
今や銀弥のことを知らぬ者は木の葉には誰一人いないが、その姿を間近で見たことのある者はまだまだ少ない。



「まさか、貴女もクーデター支援を…?」

「銀弥さまが援助してくださるなら心強い!」



並大抵の任務ではあり得ない話だが、今回は国家間の問題を一身に背負う重大な任務であるため、銀弥ほどの忍が支援をしてくれても、まあ、おかしくはない。
だが補欠ならまだしも銀弥ほどの忍が何の相談もなくひょいと重大任務に加わるなどと、普通なら考えない。
そんなことにも頭の回らない馬鹿が三人…、と銀弥は面の下で一瞥をやりながら落胆した。
現にハヤテは、そんな馬鹿な話があるものかと怪訝な顔をしている。これが正しい反応である。



「悪いが、俺は同行できない」

「え…」



男たちの興奮をよそに、銀弥はゆっくりとした動作で面紐に手を掛け、しゅるりと解いた。
鳥の描かれた面は彼女の手によって剥がされ、その素顔が晒される。


「「「!?」」」

「見ての通りだ。同行できない理由は分かってもらえたはずだ」



それもそのとおり
この問題のまさに中心にいる“苗字名前”がその人なのだ。
三人と、そしてハヤテも、口を開けて銀色の女を見つめている。



「お前らの留守の間、この戦力を以て、この命に代えても木の葉を必ず守ると誓う」



透き通る声だった。
力強く胸に響く声だった。



「だから俺はここでお前らの武運を祈ろう。これが俺にできるすべてだ」

「………。」

「不甲斐ないことで申し訳ない、許してほしい」



鳥面を胸にあてて祈るように目を伏せた苗字名前
せめて我々に真実を告げることが、戦地へ向かう我々にとっての誠意だと彼女は考えここに現れたのだ。



「ふ、ふざけたこと言ってんじゃねーよ…。お前が…銀弥だからって何なんだ!それを打ち明けられたからって、オレたちの不満が解消されるとでも思ってんのか!?」



そう言ったのは、名前を殴った男だ。
その男へ向ける名前の目は冷ややかだった。



「……って、言いたかったんだけど」



名前の漆黒の瞳は、幸せを携えると暖かく輝くのに、軽蔑の色を浮かべたときはこの上なく冷たく深い闇へと転ずる。



「ここのずいぶん頭の悪そうな三人は、任務に必要なのか。アスマ」

「人選は五代目だが…まあ、戦闘力には文句ねぇ」



その言葉が腑に落ちない様子でアスマを睨んだ。
だが熊のように寛大な男だ、それをフンと鼻で笑ってかわしてしまえば、もう名前に成すすべはない。
隊長であるアスマが「必要だ」と言った以上、こいつらとて大事な班員だ。



「てめぇ、無視してんじゃねーぞ…」

「悪かった」

「あ、ああ!?」



アスマの一言で、名前の態度がころっと変わった。
こういう点において彼女の中に備わる暗部の部隊長を務めるだけの素質を実感する。

自分の感情など彼女にとってどうでもよいこと。
部下の安全、任務の遂行のために全ての力を注げる…それが部隊長として最も尊ばれる素質である。



「俺が気に入らないのなら、任務から帰ってきてから好きなだけ殴ってくれていい。何をしてくれても構わない」

「…!」

「だからどうか無事で任務を遂げてほしい」



再び名前が目を伏せた。
彼女のその態度と覚悟に、男たちはもう何も言えなかったらしい。
シカマル、いの、チョウジはそんな様子を頼もしく思い笑った。



「貴女でしたか、銀弥さま…」



黙る男たちの中、ハヤテは目を喜々とさせて一歩進み出た。
中忍試験本選の前、砂の上忍バキとダンゾウに殺されそうになったところを銀弥に救われたことがあった。



「この命あるのは貴女のおかげです。この任務に抜擢されたのも何かの縁…」



「ハヤテさん」と名前は言った。
上忍苗字名前はハヤテをそう呼んでいた。
銀弥としても、それを変える気はないらしい。



「俺に恩を返したいと思うなら、死なないことだ」

「しかし、貴女のためならオレは…」

「いつか剣の相手をしてほしい」

「!」



そう言って、銀弥は珍しく腰に差したままにしてある愛刀を掴んだ。
相当嬉しかったのか激しく咳き込みだしたハヤテを、アスマたちは陰で笑う。



「それは、…死ねませんね!ゴホっ」

「当然だ」



そうして、シカマル、いの、チョウジ…三人の目をそれぞれ確と見つめた名前は、黙ったまま彼らの背中を見送った。




「………。」



彼らの背中をいつまでも見つめる彼女
…その背中を見つめる人物が、また一人、いた。

その存在に気づいていた名前が傍にある木を睨みあげる。



「さすがに…今回は気づかれねぇと思ったんだけど…」

「お前の気配はすぐにわかるんだよ」



ナルトだった。
暗部装束ではない、久々に見る下忍仕様のナルトだ。



「俺が任務を妨害しないか見張ってでもいたか?」

「当たり」

「くだらねぇ」



このやり取り事態がくだらないと思ったのだろうナルトは小さくせせら笑う。
こうは言いつつも…、こいつのことだからシカマル達が心配で来たのかもしれない。
本当に意外でしかないが、普段のこいつからは想像もつかないが、意外と情に厚い男らしいから。



「元霧隠れの忍で六尾の人柱力、ウタカタって男を任務の援護につけた」

「!」

「あいつらを死なせたくねぇんだろ?」



豆鉄砲を食った鳩のような顔をしているだろう俺に、ナルトは得意そうに言った。
暁との接触が危惧されるこの任務に人柱力を向かわせるのは自殺行為に等しい…それは当然ナルトもそのウタカタという男も承知のうえだろうが…。



「はっ、考えが顔に出てんぞ」

「!」

「暁二人以上が対峙した時点でウタカタは退く。支援できんのは主に暁以外の戦闘だ。…だとしても、何かの役には立つ」



そのとおり、
それならアスマは部隊の戦力を暁に集中できる。
打倒暁も十分可能になる。
そして他里の人間…いや、抜け忍がこれに加わることによって、たとえこちらの情報が漏洩していたとしても、敵の狙いを拡散させられる。



「どうだ?何か文句あるか?」

「………、」

「オレは優しいだろ?足でも舐めてくれねぇかな。それくらい感謝されてもおかしくねぇはずだけど」


余程お得意な様子で馴れ慣れしく肩に腕をのせてきた。
確かに俺は今救われた気持ちでいる。
感謝もしている。
事実、こんな風に言われなかったら「ありがとう」の一言くらい言ってやってもいいくらいの気持ちでいた。

こんな風に、お得意顔で俺の耳に自分の鼻がくっつきそうな位置で「なあ」やら「オイ、こら」とアホみたいに感謝をせがまれなければ、だ。



「俺のためじゃなくて、お前がそうしたかったんだろ?ナルト」

「…あ?」

「シカマルたちを放っとけなかったんだよな、お前は、―――優しいから」



ただの嫌味でしかないその文句を言って、みるみる不機嫌に染まっていくナルトの顔色を見届けてから俺は瞬身にて飛んだ。
飛んだ先の火影邸の裏影で、俺は一人で肩を震わせひとしきり笑った。
ウタカタがいるからといって完全には安心できないが、俺はただ、支援を用意してくれたナルトの行動が嬉しかったのだ。

それが俺のためであるのか、シカマル達を思っての行動か、はたまた両方か…
それは分からないしあいつは決して言わないだろうが

木ノ葉を大嫌いだと言ったあの男が
木ノ葉を想って成すことすべてが、俺は嬉しいのだ。



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