12

***







杞栢と菊璃のことをいのに散々いじられた。
それがもうこのうえなく不愉快だったので一発絞めてやろうと思いBランク任務をシカマル、いの、チョウジの三人でやらせてみた。



「鬼」

「悪魔」

「そんなんだからフられたんじゃないの…」

「よーし、今から修行でもつけてやろうか」



ボロ雑巾のようになりながらも大した怪我もなく、きちんと任務を遂行させたシカマルの腕には名前も感心していた。
やはり自分の見込んだ男だ―――と、前々から特にシカマルに期待を寄せていた名前には嬉しい一日だった。
もう修行はいやだ、勘弁してくれ、という悲鳴を聞きながら三人を引きつれ里の中を歩いているとある一点に目が留まる。



「…?」



隣のいのもそれに気が付く。



「あー。あれ烈火くんじゃない?」

「だな、多分」



本屋の奥の方に赤毛がみえた。
あの装飾品をじゃらじゃら下げた感じは確実に烈火だ。
…と思った途端、右腕にいのの腕が絡みついてきて「ねー名前?」と意味あり気な視線を寄越してくる。さっきまでの疲労はどこへ吹き飛んだのか。



「…烈火君って、彼女いないんでしょ?」

「え」



あいつの女…、そんなの考えたこともなかった。
可愛い女の子とデートだァー!とかはたまに調子よく豪語してるけど、特定の女の話は聞いたことがない。
多分いねぇだろうと答えると、いのが怪しく笑った。



「わたし、烈火君すっごいタイプだったりするの」

「…ふーん」

「ふーん、じゃないでしょ。ねー名前、烈火君と二人でご飯とか行けたらいいなーなんて」



…なんとなく面倒臭い心境だ。
それでもいのの捨て犬のすがるような視線には勝てず、俺は本屋へと足を向ける。
何かを真剣に読んでいる烈火の背後に近づいた。



「れーっか」

「っ!!」



声を掛けると同時に、びくっと肩を震わせた烈火はバン!!と手元の本を勢いよく閉じて振り向いた。
な、なんだよ、お前かよ、と動揺しまくりながらわたわたと本を背後に隠す。
勿論俺がそれを見逃すはずも無く、自慢の体術を生かしてスッとそれを掏り取れば……



「やめっ、おまっ、返せって!!別に今たまたま開いてみただけで…!」



―――18禁・イチャイチャバイオレンス。

思わず本を片手に固まる俺の手からそれを分捕って棚に終う烈火。



「こんなもんの何が面白れーんだか!」

「……顔、赤いけど…」

「元からだっ!」



…どんな誤魔化し方だ。
そのアホさ加減に呆れて物も言えない俺。
烈火は言い訳をつらつら並べながら本屋から出ていけとでもいうように肩を押してくる。
だいたい昼間から本屋でエロ本立ち読みなんて、本気でこいつの兄の威厳を見損ないそうだ。
もともと威厳なんかねーけど。



「烈火くーん!久しぶりー!」

「おお!久しぶり!」



俺の肩を掴んだまま、シカマルとチョウジにも爽やかに挨拶を返す。
頬を染めて烈火を見つめるいの。
…なんだか申し訳ない、こんな兄で。



「いの、本当にいいのか?こんな奴で」

「え?」

「昼間からエロ本立ち読…「おっまえ何で言うんだよ!!」



必死に弁解を捲し立てる続ける烈火に、取敢えずいのとの飯の約束を取り付けさせて三人には解散を言い渡した。
いのの誘いで一気に機嫌が戻った烈火の単純さには毎回感服する。
これから人と会う約束があるらしく、帰路を辿る俺と途中まで並んで歩くことになった。
…人と会う前にああいう本を読むのは流石にどうかと思う。



「あー…紫鏡は一緒じゃなかったのか?」

「紫鏡?いいや」

「そうか」



歯切れの悪い口調に首を傾げる。



「何かあったのか?」

「んー、いやー、ちょっと喧嘩したっていうか、」

「紫鏡とお前が?苛められたの間違いだろ」

「どーいう意味だオイ」



内容を聞いたが、何故か烈火は話すのを渋った。
逆に、最近あいつと何か変わったことはなかったかと聞かれた。



「なんとなく…お前のことで、悩んでるみてーだった」

「え…」



オレもついカっとなって言い過ぎちまってさー、と頭を掻く烈火。



「お前から何とかフォロー頼むな」

「俺から?」

「オレが何言っても聞きやしねーもん」



何が原因でケンカしたのかも知らされてないのに、フォローしとけなんてそんな無茶な。
俺の文句も聞かず、じゃあな!と曲がり角を曲がっていく。
その間際にポンと頭に手が置かれた。



「元気に戻ったな!よかったよかった」

「!」



大きな手で遠慮の欠片もなくぐしゃぐしゃと俺の頭を乱してくれた烈火は、清々しく去って行った。
顔を顰めて髪の乱れを無造作に直し、俺も報告書を書くため再び家へと歩き出す。
さっきのあいつの馬鹿みたいにまっすぐな笑顔と、温かくて大きな手が頭の中を順繰り順繰りまわってばかりで消えてくれない。
心がぽわりと熱を持って浮かび上がるような、こそばゆい感情が胸を占める。

…誰も見てないのをわかっていて、俺はこっそり声に出して笑ったりした。
烈火に頭を撫でられるのは、たぶん何よりも好きだった。





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