22
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祭の警護もとい祭を楽しむ今回の任務。
重要となる班編成はかなりの論争の末に俺は真っ先にサスケと引き離され、シカマルとシノとヒナタと組むこととなった。
言わずもがなとても寡黙な面子である。
警備も大詰めに入った時、何者かがちょんちょんと俺の袖を引っ張った。―――ヒナタだ。
「ちょ、ちょっと…いい?」
警備のため、前を歩くシカマルとシノから距離を取ろうとするヒナタ。
俺は首を傾げつつもヒナタの言う通りに歩みを止め、人気のない路地へと入った。
向かい合ってヒナタの言葉を待つ。
「ずっと…聞きたいことがあって…」
また?…と風呂場で遭った質問攻めを思い出して思ったのだが、ヒナタの真剣な様子からして趣旨が違うのだと察する。
「その首の傷…」
「!」
「何があったの…?」
―――驚いた。
包帯で巻いてあるから、昨日から何人かに「怪我?」と聞かれはしたが、ヒナタの問うところは、また別。
「ごめん…白眼で見えちゃったの…」
あいつが傷口に噛み付いて舌を差し込んだ時、九尾のチャクラを流し込まれた。
これが厄介で、その所為でまだ碌な治療ができずにいたのだ。
ヒナタはこの傷口に九尾のチャクラを見たんだろう。恐るべき瞳術だ。
(……。)
まさかそこを突かれるとは予想外で、俺は何て答えるべきかと困った。
「実は…ちょっと喧嘩してさ…」
「喧嘩したくらいで、ナルト君がそんな大きな傷をつくったの…?」
俺は何も言えなかった。
傷の程度もヒナタには見えたのだろう。
これが喧嘩程度でできるような掠り傷ではないということも知っているだろう。
言い訳は無意味だと諦めた。
「九尾のチャクラの所為で治療ができないだけで、ただの切り傷だ。毒素もないし、心配いらない」
言い訳はやめて、俺がそう言うとヒナタは顔を伏せた。
ナルトが好きだというヒナタが、今何を思っているのかは分からない。
中忍試験第二の予選で、こいつはナルトと同じ忍道を口にした。
こいつがナルトを如何に慕っていたかは一目瞭然だった。
だが、無責任に「ナルトはイイ奴だから、信じてやれ」と軽々しく言うのも気が引けたし、「ナルトなんか慕うのはよせ」と言うのもヒナタの気持ちを思うと無鉄砲に思えた。
「ナルト君って…」
「―――……俺にも分からねぇんだ。あいつが何者なのか。何考えてんのか」
「…」
「優しいときもあれば、血の気が引くほど残酷なときもある。…どっちが本当のあいつなのか、わかんねぇ」
俺がそっとヒナタへ視線を戻せば、困ったような顔で「そっか…」と小さく頷いた。
そして互いにしばらくの無言が続く。
「仲直りできればいいね」
「!」
やはり困った顔で、だがにっこり笑ったヒナタ。
本当に心配してくれていたようで、少しの気不味さを感じながらも俺は頷いた。
ったく、こんなにヒナタを心配させやがって…とナルトを恨むが、今日の今日まで皆に心配をかけていた俺が言えた立場じゃないかと内心苦笑する。
そして…改めて知ったヒナタの思慮深さに感謝した。
「黙っててくれて、ありがとな」
「え…!」
「あいつ等が知ったら、色々問い質されるうえに、心配かけるだろ?」
一瞬ぽかんとして、嬉しそうに「ううん!」と首を横に振ったヒナタが可愛かった。
そのとき―――
「おいお前等…!ここにいたのかよ!」
「シ、シカマル君…」
突然消えた俺とヒナタを心配して、シカマルとシノが必死に探し回っていたらしい。
シカマルもシノも少し怒っているのを見て、任務中に勝手な行動をとってしまったと焦りだすヒナタ。
その様子を面白そうに見ている男装名。
「ヒナタが急に別行動とろうって俺を無理に引っ張ったんだ」
「え、ちょ…名前ちゃん…!」
「そうなのかヒナタ?名前が嘘吐いてるだけじゃねぇのか?」
シカマルは完全に俺を疑っているようだが、実際に俺の腕を引っ張ったのはヒナタだ。
シカマルの問い掛けに、ヒナタは泣きそうになりながら謝った。
「じゃあ罰として全員に綿飴奢れよ、ヒナタ」
「うわ、同罪のクセにがめついな、お前」
「…オレはどちらかと言えば綿飴より焼きそばがいい」
「シノ、てめぇもか」
名前のこの淡泊で大胆なところがヒナタは心地が良くて好きだった。
いのとサクラにするのと同じように、自分にも容赦なく…いや、遠慮なく接してくれるのが嬉しいのだ。
冗談のつもりで言った名前だったが、思いの外ヒナタが楽しそうなのでシカマルとシノと共に綿飴を御馳走になったのだった。
*****
今日も木ノ葉は平和。
鳥が囀り、温かい風が吹いて、日差しがぽかぽか気持ち良い。
眠気と格闘しつつの門番はそれはそれで大変。
ちょっとくらい事件が起きてくれても良いもんだと隣の同僚にボヤくと一喝された。
「お。あれは…」
イズモの声にオレも目を凝らして見れば、カカシさんとアスマさん紅さん。
そしてよく見知った下忍達の姿があった。
「あいつ等もまあまあ、様になってきたんじゃねーの」
「シカマルも居やがる……ん?」
「どうした?」
イズモがある一点を見つめて固まっている。
なんだなんだと探る中で、一人…ある女に目が留まった。
「おいおい、ありゃあ…ざらに見ねぇ美女だ」
「……おお。…だな」
黒い髪に白い肌。
露出は少ないが目に見える細く伸びる脚。
そのキリっとした目付きが生意気な色気を漂わせる。
綺麗な肌に眼の縁が影をおとしていて、思わず喉が鳴った。
「でもよく見ろ、カカシさんの後ろにいるぞ」
「マジかよ。…リスク高ぇなオイ」
「いや、それにしちゃ若い。一端様子を見るぞ」
「だな。抜け駆けは無しだぞイズモ」
「お前こそな、コテツ」
*****
「お疲れ様です」
「ああ。…お前等も随分とヒマそうだな」
「いやー、あんまり平和なもんで」
無事木ノ葉の里へと帰還。
門番のイズモとコテツと適当な会話を交わしながら、通行記録に名前を書き込む。
自分の名とサスケとサクラ、名前…いや、今は取敢えず男装名の名を書き終えて、イズモに手渡す
のだが…当の本人はある一点を見つめたままオレに気付きもしない。
視線を辿ってみると…名前だ。
「え、あ、あーっと」
頬をほんのり染めて頭を掻きながらそろそろと近づいていく。
「オレはこの里の中忍、神月イズモといいます。通行証などはお持ちで?」
「…あ…「オレははがねコテツといいます。木ノ葉へのお越しは初めてですか?なんなら…」
「邪魔すんな!……失礼しました。こいつかなり女癖の悪い奴でして…」
名前の前で取っ組み合いながら、必死に笑顔を向けるイズモとコテツ。
それを陰でクスクス笑うこいつ等と、段々仏頂面になっていく名前。
「火影様との用談でお越しですか?」
「唯の…任務からの帰還です」
「…はい?」
名前が額当てを巻いてある右腕をさり気なく差し出すと、ポカンとそれを見つめる二人。
木ノ葉の忍でカカシの部下だとアスマが助け舟を出してやる。
ぱちくりと数回瞬きを繰り返す。
「木ノ葉の忍…?」
「はい」
「…えーっと、何というお名前で?」
名前が口元に弧を描く。
やっと公に名乗ることを許された、最愛の人に貰った名を。
「……名前は」
日の光の下で
堂々と…
女は名乗った。
「苗字名前」
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[mokuji]
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