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生きる理由がなかった。見つけられなかった――というより、見つけようとしなかった。生に対する執着もなかった。だから車に轢かれそうになった時も避けようとする素振りも見せずそのまま突っ立っていた。嗚呼、これで死ぬ?瞼を閉じて、その時を待った。……しかし誰かに思いきり肩を押されて、次に目を開いた時私は五体満足で生きていた。目の前には男の人。腕から血を流していて、私を突き飛ばして助けて庇ってくれたのはこの人だと直ぐに分かった。
「……っ、大丈夫か?」
『あ……、はいっ……!』
癖っ毛気味な黒髪。
「良かった。怪我はないな?」
『私は大丈夫ですけど、貴方が』
「俺も大丈夫だ」
私の頭を撫でる、優しくて大きな手。ふわりと香った微かな煙草の匂い。
「これからは気を付けろよ」
吸い込まれそうな程綺麗な、深緑色の瞳。そして、抱き締められた温もり。もう彼に釘付けだった。見ず知らずの私を助けてくれた、名前も知らない人……だったけれど。
「唯、何をしてるんだ?」
『……最初の出会いを思い出してました』
「ああ……そうか、ここの道……」
『車に轢かれそうになった私を、秀一さんが助けてくれた場所ですよ』
人生、捨てたものじゃない。一生伝わらないし、伝えないと思っていたこの気持ち。とある弾みで口に出してしまったのだが、なんと彼も私と同じ気持ちを持っていたことが発覚。
そして今に至るのだ。
『今だから暴露しますけど、二年前のあの日にもう秀一さんを好きになってたんですよ』
「ホォー?所謂、一目惚れかな?」
『はい』
「何だか照れてしまうな」
『ふふふ……』
これは想いが通じあってからの物語。
FBIの狙撃手と"女子高生"という関係から、FBIの狙撃手とその"恋人の女子大学生"という関係に辿り着いた、二人のお話である。