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この世は現実的なことに満ちているけど、非現実的なこともちょこっと潜んでいたりする。滅多に顔は出さないけれど、ふとした拍子に現れ、私達を困惑させる。

それは良いものや悪いものだったり。
私は現在進行形で『悪い』方に出くわしてしまったようだ。このどしゃ降りの雨の中で、私――星上 唯はアスファルトの硬い道に這いつくばっていた。

あー寒いなー、なんて呟いてみるけど、人の気配が一つもない場所で私の声を拾ってくれる者なんていない。拾ってくれたのは、自分の耳だけ。


『あぁ……玄関開けたらいきなり落下、地面に叩きつけられた挙げ句、この姿とか……』


自分の手を見つめた。

細くて小さくて、頼りなさすぎる、子供の手。勿論、手だけではなく全身子供の状態になっている。普通に家に帰っただけなのに、辿り着いた先にリビングは見えなかった。

見えたのは、硬いアスファルトだけ。


『某推理漫画を思い出すよ……真実はいつも二つって……あ、ちがう、一つだった……』


なんか、眠い。

別に、激しく運動したわけでもないのに身体がどうしようもなく、重い。地面に叩きつけられた時に、痛めてしまったのだろうか。

私を別の場所に飛ばした誰かさん、人の扱い乱暴すぎやしませんかい?もうちょっと丁寧に落とそうよ。アスファルトは酷い。

心の中で文句を垂れている内に、色々と面倒くさくなってきた。もう寝てしまおうか。

寒い寒いと呪文のように唱えながら目を瞑ったところで、現状が回復する筈もなかった。しかし、今まで容赦なく私を打ちつけていた雨粒が、止んだ気がした。

もしかして晴れたのかな。
目は開かずにそう予想したが雨粒の音は、まだ聞こえてる。それにこれ……雨粒が傘に当たる音?


「大丈夫か?」


雨の音に混じって、低音の、心地よい声が聞こえた。




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