「もーあったま来た!!」
一つ声を上げては、ぼふん、と勢い良くクッションを膝に叩きつけている。隣に座る俺は汗一つ。
「な、ん、で、俺、頑張っ、てるっ、のっ、にい!」
リズム良くパンチを決め込む円堂は相当頭にキているようだった。鈍い音を立てながら歪んでいくそれは、俺もお気に入りのクッションなんだが。
「え、円堂。落ち着け、何があった。」
「何って別に何も怒ってねぇ!俺、自分に怒ってるの!」
円堂の言葉は支離滅裂な上に矛盾していて、対処の仕様がない。言った俺こそ落ち着くべきなのだが、正直な所、普段見れない円堂の一面に若干の戸惑いを覚えていた。
ひとしきり騒がしくした後、円堂は眉を下げ膝を抱えこむ。
「…だってさ、何度も、頑張ってるのに、笑われるし、それなのに、出来ないし、」
主語が抜けては居るものの、おおよそサッカーの新しい必殺技のことか何かで悩んでいるのだろうと判断出来た。呟くように円堂は言葉を紡ぐ。
「あーあ…うー。ちくしょぉ、俺頑張ってるのに、頑張ったって、無理…な、ハズはなくて、きっといつか、だけど、あぁ、いつかって、なんだ、だって、あーもう!そうじゃなくて、あーっ、なんで自分が信じられないんだ、頑張れよ!なんであと一回やらなかったんだろ!もうだって試合まであと少ししかねぇのに次は」
そこまで聞いて俺は耐えかね、狼狽する円堂の肩に手を置いた。
「円堂」
話を折られ拗ねる円堂は「なに」だなんて声を張りこちらに顔を向ける。俺はその揺れる前髪をもう片方の手でかきあげて、シワの寄った眉間に小さなキスを落とした。
ちゅ、と聞こえたその先に待つ、頬を染めて驚く顔がたまらなく愛おしかった。俺はソファから立ち上がり、外出用のコートを羽織る。
「さて、円堂。肉まんでも買いに行こうか」
茫然とする円堂に「ほら」と手を差し出せば、円堂はムッとしつつも俺の手を取り、わざとらしく体重を掛けて起き上がる。その弾みで予想外に転びかけた俺を見て、円堂は噴き出すよう笑った。今日会って、初めての笑顔だった。
その解れた笑顔に俺も自然と顔が綻ぶ。ギュッと手を握り返してくる円堂の笑顔は、今まで気分を悪くしていたことを恥じるような、握られた手と同じくらい温かい、暖かい、幸せそうな笑顔だった。
そう、俺と居るときくらいは。
110406
素敵企画『鈍感ハートに点火しろ!』様に提出させていただきました。鬼円はホットケーキみたいに甘い。
癒えてしまえばいい