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神谷が泣きながら八木邸から出て行ったその日の夜。



「あ〜スッキリした!」

伸びをしつつ厠から出た晃は、ある物音を聞く。
 

 

「か、厠…ですか?」
「え、えぇ、まぁ…。」


2人。…恐らく1人は神谷だろう。もう1人は……とりあえず聞き覚えのある声だった。
その2人の声がたいそう驚き震えているように聞こえた晃は、一応様子を見に行ってみる。



「夜だからって、人に出くわしたらそんなに驚くか?普通……。」

お互いにたじろいでいる声を聞いてそう思った。
しかし見てみると、2人とも厠とは正反対の方向へ走り去って行く。
後姿が見えた2人の人間のうち1人は、確実に神谷だった。
そしてもう1人は、確か――荒木佐十郎。


2人が脱走するのだと勘で思った晃は、すぐさま追いかけた。
しかしそこには総司が先に居て、荒木の首を飛ばした。
どうやら長州の間者だったらしい。

建物の影に隠れて静かに見ていた晃は、1人で妙にうんうんと頷いている。
実際には荒木が間者だったという事で、今までにもおかしな点が多々あったために1人で納得していたのだ。



――と考えていると、神谷が総司に刀を向けた。

しかし技がない神谷の刀は簡単に総司にかわされてしまう。



「仕方ないですねぇ。」

そう言って総司が神谷を斬ろうとした。―――が、


ガギィンッ!!


刀を振り下ろした瞬間に晃が2人の間に入り、いつも懐に隠し持っている小刀でそれを食い止めた。


「――晃?!どうしたんですか?!」
「総司ー。
 神谷さんの服だけ斬ったら、神谷さんが可愛相だって。」

神谷は晃の言葉よりも、晃の神速(かなり厳しい修行をしていたので、神速以上だが)の脚力に驚いて、口をパクパクと動かしていた。
そりゃあもう、目には見えない速さで自分と沖田の間に入っていたのだ。
気づいたら目の前に居たというレベルだ。驚くのは当然であろう。


「どういう事ですか?」
「神谷さん。口をそんな風に動かしたら、まるで魚みたいですよ。」

神谷は晃にそう指摘されて、急いで口を手で覆った。

「さ、魚?」
「えぇv」
「…というより、どうして私が斬られたら可哀相になるんですか?」

神谷の目が緊張している事を定かにする。
そして、今度は総司に向き直って話す。

「総司。お前、本当に気付かなかったのか?」
「――何がです?」
「お前なぁ…。
 神谷さんは、どうしてこの壬生浪士組に入ったのか。……どうしてだと思う?」

この場には大きすぎる晃の声に注意をしつつ、総司が眉間にシワを寄せつつ「何ででしょう?」と言う。


「私の推測に過ぎないけど、多分仇討ちだよ。 
 で、総司はこの子に一度会った事がある。どこでだか覚えてるか?」
「…見たことのあるような気がするんですけど…。何処ででしょう?」
「この子は、私達がまだ上京して間もない頃、総司が初めて人を斬ったあの日に居た。」

総司は真剣に眉間にシワを寄せて悩んだ。

「……ああ!あの時の女子…って、嘘だ!」

また悩んだ総司。

「そうだよ。神谷さんは女子。きっと、あの時の家族の仇を討ちに来たんだ。
 で、どうでしょう?私の読みは当たってましたか?神谷さん?」

また神谷の方へ向き直って、今度は総司の態度とは別にニコニコとして問う。
対して神谷の目には、また涙が溜まっていた。


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