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「―――晃。お前――――――――密偵の仕事に就け。」

「……え?」








とある朝の局長室。
近藤と土方と月村の3人が居るこの部屋で、唐突にそう言われた。




「どうして私ですか?」

「危険の多い仕事だが、お前だったら出来ると思ったからだ。
 足も速いし、動きやすい。密偵には持ってこいの人材だ。」

いきなりすぎた。
密偵の人達の顔と名前は全員知っているし、仕事がどんなものかも知っている。
断る理由はある訳ではない。しかし、どうして土方が自分を指名したのかが未だによく分からなかった。

そこで、近藤が口を挟んでこう言ったのだ。


「トシはな、お前の頭の回転さも評価しているんだ。
 晃は頭の回転が早い。
 それに悪知恵の方も、トシによく教え込まれたおかげでよく働くから、頭を使った情報収集なんかもし易いだろう。
 加えて周りへの観察力が優れて聴覚も優れているから、難しい事でも周りより楽にこなしてみせるだろうとトシがな。
 密偵の仕事をしてみる気にはならないか?晃。」


土方は顔を真っ赤にしながら「近藤さん」を連呼している。
しかし晃には土方が照れることなど、正直今の頭には気にも留めていない。
それより土方がそこまで自分の事を認めてくれていたのかと、嬉しかった。
晃の表情に自然と笑みが零れた。


「ええ。構いませんよ。
 私が役に立つかどうかは分かりませんが。」
「晃なら出来るさ。」
「斉藤さんや山崎さんほど役に立つといいんですが。」
「トシも密偵の中じゃ一番信頼を置ける存在だろう。なぁトシ?」
「―――なっ何を近藤さん?!
 俺はこいつがすばしっこいから仕事がし易くていいだろうと……!!」
「照れなくてもいいじゃないですか〜。カワイイんだからなぁv」




―――例えどんなに危険でも、死んだとしても、この2人の為に死んだのなら後悔はしない。

それが晃の気持ちだった。――この人達の為ならば、どんな状況でだって笑って死んでいく覚悟がある――




「なッ!?
 て、テメェ俺といくつ歳が離れてると思ってんだ?!」
「えっと、十とおですよね?」
「あっさり言うな!!ってかそーゆー問題じゃねぇ!!」
「あはは、大丈夫ですよ。土方さんまだまだ老ける事はなさそうですからv」
「――だから――!!
 そーゆー問題じゃねぇッ!」
「アハハ!土方さんの顔が鬼ーーーー!」



どったんばったん騒いでいると、神谷が襖を開けて入ってきた。

「今斉藤先生がお戻りになられたので伝えてくださいと沖田先生に言われましたので…。」

その言葉に皆喜び、土方の顔も綻んだ。
――が、

「とか言いつつ、もっとずっと前に帰ってきていたのでしょう?
 どうせ総司が伝えるのを忘れていただとかそんな事だと思うんですけどねぇ。
 さっきから外がやけに騒がしいですし。
 どうせ総司の奴、『もしかしたら晃に悟られるかも知れないですが…。』とか言って冷汗垂らしてたんじゃないですか?」

晃が総司のもの真似をしながら冷ややかに言った。
――すると、

「――はい。全く同じことを言っていました。」

「…やっぱり?」

「よく一文字も間違わずに言葉を想像できるな。」
「土方さんそれ思いっきり皮肉に聞こえます。」
「―― 一応皮肉だからな。」
「…酷い……。」



――そしてまた2人でどったんばったんし始めて、近藤がたまに止めに行った。
 
神谷は自分の隊の上司のこんな様を見て、途中で耐え切れず帰っていった。



「…あれ?」
「どうした晃?」

晃の呟きに土方が返す。

「外で総司と斉藤さんが試合ってるみたいです。
 見に行って来てもいいですか?」
「ああ。そう言えば騒がしいな。
 行って来るのは構わないが、あとで斉藤も連れてここにまた来い。
 密偵の仕事の方は頼むぞ。」

晃はいつも鋭いなぁと近藤が呟きながら、土方が微笑んで返答した。
すると晃も「はい」とにっこり笑い、その場を後にした。


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