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文久3年 5月 (西暦1863年6月)
 


壬生浪士組 宿所前川荘司邸





今屯所では、平隊士が土方に稽古をつけて貰っている真っ最中だった。

――今は神谷が根気良く土方に向かっている。
永倉や井上もその根気の良さに関心しているくらいだ。

しかし、この男――土方は、手加減は稽古では絶対にしない。



神谷はずっと土方に向かっていき、何度も倒れている。

ひっくり返る事もあれば足を滑らせて転ぶ事もあり、一瞬気絶する事もしばしばだった。

――そして終いには、初めての人恒例の”吐気”が来て、外に吐きに行った時だった。



 

 
―――べチャっ!

何かが顔面に当たった。


――泥団子だった。
2人の子供が泥団子を両手いっぱいに持ち、そのうちの1つ――いや、2つをこちらに向かって投げてきたのだ。
しかし、当たったのは1つだけ。

――もう1つは…

「…っと、危ない危ない。
 お茶碗に泥団子が入ったらどうしようかと…。」


――まぁ、湯のみ茶碗に泥が入るだけだから洗えばいいのだが。


そこに居たのは、晃だった。
晃は1人で外に出てのんびりと茶を飲んでいたのだが、そこに泥団子が飛んできたのだ。
しかし、晃は上手く屋根に飛び乗り、被害にはあわなかった。

「――出て行き!!」

彼らに泥団子を投げつけたのは、元々八木邸に住んでいた子供、為坊と勇坊だ。
そりゃあ、自分が暮らしていたところに評判の悪い”壬生狼”が住み込んで来たら嫌がるだろう。
友達だって親戚だって避けていくに違いない。
誰だって追い出したくなる筈だ。
無論子供達は泥団子を神谷を走って追いかけながらも投げつけてくる。


「ありゃー…。」

晃が熱い程温まった屋根の上に胡坐を掻いて座りながら見ていると、芹沢一派が帰って来た。

「ありゃりゃー…。」

無論芹沢は神谷の顔を的にして泥を投げつけられている事に目ざとく気付き、


「この悪タレどもが何をしとるかぁっっ!!」

と言うなり走っていって、持っていた鉄扇で為坊の頭を殴ろうとした。



――が、


ガギッ!!

総司がすっ飛んできて、刀で防いだ。

「おー!!総司お見事!!」

一方晃は拍手をして総司を褒めているだけで動こうともしない。


――総司はと言うと…

「トンボですv」
とかなんとか言って、次には「トンボを潰さなくて良かったですねv」とか言っている。

――明らかに為坊の頭の方が大切なのは明確なのだが、それを言うと芹沢の機嫌を損ねるだけだ。
総司は良く芹沢の機嫌の取り方を知っている。
それは、晃にも言える事だ。






―――芹沢鴨という人間は、要するに単純なのである。

自分を褒められれば喜ぶし、気に食わない事があるとすぐに殴りかかる。

だから今も、機嫌が直ったかと思うと怒り、また褒められると喜ぶ。




そして、総司に宥められた今、芹沢は楽しそうに総司と遊んでいる。

―――おかまごっこ――。
というか、大抵総司が女子の真似をして芹沢と遊ぶのだ。




それを見ていた神谷は、これが沖田総司の本性なのかと嫌そうに見ていた。

――それに気づいた晃は…。

「あれ、実は半分くらいは総司の芝居なんですよね〜。
 でも見ていて楽しいですよねvそう思いませんか神谷さん?」

ニコニコと総司と芹沢を見ながら言う晃に神谷は内心ムカついて、
「いえ全く。」
――と、なんとも素っ気無い返事を返された故に晃は多少落ち込んだが、すぐに機嫌を取り直し、
「芹沢先生ー!私も仲間に入れて下さいよーv」
と足取り軽やかに行ってしまった。



――そんな中、神谷だけは楽しくならず、総司や晃に対する印象としては悲しく空しい変人の二文字であった。



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