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―数日後――――




晃は喜兵衛と薫と3人で出かけていた。





「薫。俺なんかさ、薫にコキ使われてるような気がするんだけど。気のせい?
 一昨日から飯を作らせたり洗濯全部させたり大量の買い物させたり…。
 まぁ、飯作るのとかは昔からやってるからいいんだけど。
 というか、喜兵衛さんは今までこれを全部お一人でこなされてたんですか。」

晃の呟くような質問に、喜兵衛は愛想よく笑う。

「はい。
 ですが、大変だと思ったこと等一度もありません。
 今は晃さんが手伝ってくれるので、とても楽にはなりましたが。
 薫さんには感謝してもしきれない程の御恩がありますので。」


御恩?と首を傾げると、喜兵衛はまたにこりと笑って穏やかに答えた。


「ええ。お恥ずかしい話ですが、行き倒れてたところを助けて頂いて。」
「ああ、なるほど。そういう事ですか。」

うん、と晃は納得したように笑顔で頷いた。
彼の裏の顔を見ようとしている事を知られぬように、ごく自然と―――。



ふと視線に気付くと、薫が訝しげな顔で晃を見ていた。


…え、まさか、何か勘付かれた?



――――そして暫く、晃は薫と視線を合わせたまま。
傍から見れば、まるで見詰め合った男女に見えなくもないが、内心晃はどうやって彼女の気を逸らせばいいかと悩んで必死である。


「あなた……。
 ………………………どうして喜兵衛には敬語なのよ。」
「は?」
「あなたって何だか、失礼な人のように見えたのよねー。最初。
 意外と丁寧なのね。」
「はあ?
 何言ってんだ。大体な、普通御老人には敬いの気持ちを持って敬語で接するのが―――――」
「――あら?捕り物かしら?」
「あ?
 え、おい、人の話を―――」


人の声にも振り向かず、薫はスタスタと歩いて行ってしまった。
まだ話の途中だというのに…。

はあ、と一つ溜息を吐くと、晃も喜兵衛と薫のあとを付いていった。




見ると警官が誰かを抑えようと必死になっているようだ。

「流浪人!
 あなたまだこの街に居たの?!」

先日の流浪人、剣心という男であった。 ――確かに、人ごみの後ろの方からでもあの紅い髪は目に付く。
薫が彼の所まで駆け寄ったのだが、薫に言われて晃もそこへ行った。



――が、


「やべっ、帯刀…。」

警官を見ると、やはり「こいつもか」と言った顔でこっちを見ていた。

「お前も廃刀令違反か!」

無論指摘されるが、晃は至って冷静に、
「いやだなぁ。ただ闇雲に人を切り刻む辻斬り(・・・)とは違うんですから。
 私達を捕まえる前にまず、例の辻斬りを捕まえる事が警察の役目なんじゃありませんか?」

晃は一人称が「俺」になったり「私」になったり、言葉遣いが変わったり、良く分からない人物だ。
だが、これは無意識のうちに使い分けている。
今のヘラヘラ感も、警察に許して貰う(?)ための1つの方法なのだ。

「なっ何を言うか!お前だって廃刀令違反!悪者には変わりないだろう!」
「私が悪者ですか?嫌だなぁー。帯刀してるってだけでそんなもの決め付けないで下さいよー。
 その前に辻斬りを捕まえて下さいって。そっちの方が完全に悪者じゃないですか。
 それに、ほんの少し前ですよ?その頃はみんな帯刀くらいしてたじゃないですか。」

晃が腐り気味に言うと、警官は少し不満そうに見ていたのだが、薫を見てある事に気付いた。


「――お前は確か人斬り抜刀斎の道場の――」
「それは濡れ衣だと言ってるじゃないの!」

そこまで言うと薫はかなりの反応の速さで言葉を返した。勿論怒った口調で。

「な、何だその言い草は!
 貴様官に盾つく気か!!」
「官、官って、お上の意向を笠に着て威張ってるんじゃないわよ!」

2人は喧嘩をし始めたが、晃は薫の影に隠れて笑を堪えて震えている。


――しかしそれは警察に見えていたようで、

「貴様!何が可笑しい?!」
「可笑しいですよ、2人の喧嘩。2人とも気が合いますねー。」

遂にはゲラゲラと笑い始めた晃。
そして警察は額に青筋を浮かべて、今にも捕らえようと構えた。


――が、

「まぁまぁお待ち下さい。」
「何だ貴様は!」
「喜兵衛…。」
「そう怒らずにここは一つ穏便に…。」

喜兵衛は、薫には見えないように、手を握ったように見せかけて金を警察に手渡した。
すると、なんと警官達は大人しく帰っていってしまったのだ。


「しかし、この町の警官は心身共にいまいち頼りないでござるな。」
「はっ、全くだ。阿呆臭せぇ。
 ったく、あんなんが国を守るってのか…。」
「…え?どういう意味?」
「あ?ああ、あんな細っちょろいのが警官で大丈夫かよって話だ。」
「あんたが言えた質じゃないでしょ!」
「あっはは。すまんすまん。」











ここ数日、晃が薫を手伝って調べた情報によれば、「鬼兵館」という剣術道場に2ヶ月ほど前士族崩れの大男が牛耳った。のだと言う。

「お前、調べんの下手クソだなー。まだ何にも調べられてないのかよ。」
「拙者は晃殿程調べる事は上手くないでござるからな。」

晃が変な目で見るのに対し、紅い髪の男はニコニコしている。
そこで、喜兵衛は夕飯の支度があると言って帰ろうとした。
しかし、振り返りざまに晃と剣心に目をやってから帰って行った。



(―――――やっぱあいつ、何かあるか――――)











「あの…。」

1人の若い娘が晃に話しかけてきた。

「はい?
 あぁ!この前辻斬りの事を教えて下さった…!!」
「――はい。あの――」

娘は何だか顔を赤く染めてモジモジしている。

「あの――これ!!」

そう言って何か文を渡すと、急いで何処かへ行ってしまった。

「――何それ?」


薫が不思議そうに文を見ている。

「――恋文でしょ。
 また貰っちゃったよ、どうしよう…。
 貰ってもどうしようも出来ないのになー。
 やっぱりあの人の影響が…。」
「あなた、普通恋文なんか貰ったら喜ぶでしょ?」
「え、いや、でもだな………。な!剣心!!」
「いや、拙者に振られてもでござるな…。
 ――あぁ!拙者、これから小用があるんでまた後日に。」
「え、おい!
 あいつ………!逃げやがった……!」

遂に紅い髪の男は行ってしまった。




「そうだ薫!!」
「な、何よいきなり?!」

晃が突然目を輝かせて大声で叫んできたので、薫はかなり驚いたようだ。

「あのさ、どっかに美味い甘味屋とか知ってる?!」
「え?甘味?
 甘味屋だったらここから5つ目の角を左に曲がったところにあるけど。」
「マジで?!じゃあ帰りは夜になるかもしれないから宜しく〜!!」

甘味を食べに行くだけで夜までかかるのかと思ったが、そこはあまり考えずに薫は家に帰った。


正直、これは先ほど薫に疑問が湧いたであろう事から逸らす為の苦しい策でもあった。




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