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―――明治十一年、廃刀令が布かれた日本。
国の中で帯刀をする人など、帯刀を許された警官くらいのものだ。
もししたならば、罪に問われてしまう。
しかし、この人は違った。立派な刀を腰に差し、堂々と街中を歩いている。
紅桜(べにざくら) 。この堂々と帯刀をした人が、あの幕末時代から使用している愛刀である。
紅桜と聞き、刀の名前とは思えない人物がいるだろう。そぐわない、と思うかもしれない。
刀らしくない、一見やけに華々しい名だと思うかもしれない。
だが、この刀の由来はそんなに美しいものではないのだ。
そもそも、もともとこの刀に名は無いのだ。ない事に深い意味はない。
この刀が紅桜と呼ばれるようになった所以は、人間を斬った時の血飛沫が、まるで紅い色の桜の花びらが舞うように見える。と、この刀の犠牲者となった人物が呟いた事からその名が付けられた。
――それはされおき、この人(名は、月村晃である。)は、今居るこの町の変な情報を耳にした。
「え、ここに居るんですか?」
「はい。毎日のように何人もの人が殺されたり重症を負ったりしていると…。」
「で、警察は?」
「止めようとしているみたいなんですが、その人はとても強くて警察も敵わない程らしくて…。
”神谷活心流、緋村抜刀斎”。そう名乗って去って行くんだそうです。」
「神谷活心流、ですか?」
「この町にある剣術道場です。」
「じゃあ、それを名乗られた道場の門下生は、やはり…。」
「はい。みんな辞めてしまったようです。」
「―――そうなんですか。突然なのに、ありがとうございました、娘さん。」
ニコっと笑って去ろうとしたこの青年(見た目が)は、去ろうとすると今話していた娘に背を向けようとした。
「あの……。貴方は、辻斬りの所へお行かれに?」
心配しているようにも見えるのだが、どこか娘の顔は赤くなっているように見えた。しかし顔立ちがよくたって、この男、これでも35歳なのだ。
「ええ。でも、帯刀なんかしている私にいろいろと教えてくださって、ありがとうございました。」
そして、もう一度晃はにっこりと笑いかけて軽くお辞儀をし、娘の下から去っていった。
(辻斬り、か。身の丈が六尺五寸もある男。そして、あいつの名前を述べて去っていく。
神谷活心流っていう道場に目的があると考えるのが妥当だな。 それにあいつは恐れられているから、丁度いい、ってとこか。
ただ、頭はあんまり良くなさそうだなー)
伸びをしながらのんびりと考え事をしていた晃に、妙な声が聞こえた。
ギャアアァァァアア!!
その叫び声の直ぐ後、
ピィイイィィィイイ!!
笛の音が聞こえた。この笛を鳴らした本人も相当焦っているのだろう、音は大きいが通常より震えているのが聞いた音で分かる。
(――辻斬りだ!)
そう思うや否や晃は駆け出し、叫び声の方へ走った。
――そこには、木刀を持って壁に追い詰められた娘と、辻斬りらしき一人の大男が向かい合わせに立っていた。
「娘さん、そこで下がっておいでなさい。」
晃が刀を抜いて構える。
「ち、ちょっと!貴方誰よ?!」
晃は娘の質問に答えもしないで、相手に集中していた。
――すると
「斬るな!」
紅い髪をし、頬には十字の傷を入れて帯刀をした青年(に見える)が走ってきた。
「斬るな晃殿!!」
「チッ めんど臭ぇな。」
紅い髪をした男が来て立ち止まると、辻斬りの男は紅い髪の男も帯刀をしていて不利と思ったのか、足早に去ってしまった。
お決まり文句の「神谷活心流 緋村抜刀斎」の言葉を残して。
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