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薫は近頃苛ついていた。


――理由は2つ。


1つは、門下生達が帰ってきてくれない。



後1つは……。



「なんで剣心が28歳なのよ!嘘よ詐欺よ訂正しなさい!!」
「なら、30過ぎなら良いでござるか?」
「…それもヤダ。」
「うわぁ〜。薫我侭ー。」
「あんたもよ!どうしてその顔で35なの?!
 この前だってラブレター貰ってたじゃない!」
「それは何故だか昔から。」
「そーじゃなくて!
 どうして35でそんなに若いの!?
 私よりちょっと年上っていうくらいにしか見えないじゃない!!」

薫の怒りに 晃は呆れた。
――まぁ、当然と言えば当然なのだが。

「そんな事で怒ってたの?」
「そうよ!何か悪い?!」
「いや、でも、薫だって巷じゃ美人の師範代――何だっけ、『剣術小町(?)』って言われてんじゃん。」
「あらやだ、知ってたのv?」
「うん。」

薫は照れた。そして晃は内心呆れる。

薫はメチャクチャ分かりやすいなぁ。それが晃が薫に対しての第一印象。
この印象はこの先ずっと変わらないだろう。

(――薫を見てると、なんだかあの人が思い浮かぶ――)





「――晃?」
「――え?」
「どうしたの?」

いつの間にかボーっとしていた自分を我に返らせたのは、薫の手と声だった。
手を目の前でハタハタと動かしている。

「何よ。いきなりボーっとして。しかもなんか楽しそうだし。」
「……いや。薫が面白いなぁと思って。」
「どういう意味よそれ!
 まあいいわ。晃、買い物に着いて来て!」
「えー、またー?」
「居候なんだからそれくらいしてよね!ほら、剣心も行くわよ!」
「は、はいでござる。」


また、薫の買い物だ。一度に多く頼むから嫌なのだ。いつもさりげなく言ってはみているのだが、分かってはくれない。



















「剣心はお味噌と塩とお醤油をお願い。」

道端で重い物ばかりを頼む薫。
剣心は文句を言いつつ店に入っていった。決して大きな声にはしないが。





――と、

「――馬車上から失礼。」

そう言われ晃と薫が振り向くと、晃には見覚えのある顔。

「「―――――!!」」

馬車に乗っている人と目が合った。
以前よりシワがいくらか増え、髭を生やしたが見間違える筈も無い。
正直驚いたが、この平和な街で何をどうする訳にもいかない。
直ぐに表情を元に戻し、静かに訊ねた。

「―――どうなさいました?」
「あ、ああ。
 警察署を行くにはこの道でいいのか?」
「この道をつきあたって、大通りを右に曲がったところにあります。」
「ありがとう。」

馬車が走り去った少し後、薫が尋ねた。
――――やっぱり自分とあの人の異変に気付いたか――。
少しばかり目ざとそうな娘だと思ってはいたが、やはり勘が良いらしい。

「知り合いだったの?」
「…まぁ、多少。」
「そう。それにしてもどっかの御大尽かしら。」
「……………。」
「…晃?どうしたの?」
「――いや。
 (まさか、かつての敵対していた者に道を教えるとはな。)」


時代さえ変われば対人関係も変わるものなのかと、自分を嘲りたくなった。



ふっと笑って買い物の続きをしようとした時、ある騒ぎが耳に届く。











「待て!ちょこまか逃げるな廃刀令違反め!」
「いや拙者別に…。」
「言い訳はどうでもいい!大人しく捕まれ!」



「薫………。」
「どうしたの?」
「剣心が警官に追われてる。」
「はぁ!?」
「逃げ足の遅い奴め…。」
「何言ってんのよ。剣心は充分速いわよ。…とりあえず行きましょう。」


警官と走る音と剣心の喋りが聞こえた気が晃にはした。
というか、実際聞こえた。
昔から彼は耳がいいのだ。






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