「だ、だめですだめですシンドバッドさん…!!」

そう言って目の前にある、がっしりとしたたくましい肩を押し返せど、悲しいかな、まったく、少しも動いてはくれない。むしろそれは俺の都合の悪い方に進んで、恐ろしいほどの男性の色気を振りまいた、それはそれは男前な顔がもうすぐそこにある。

「なんだい、今夜はつれないなあ」

酒臭い!!そう叫んで、目の前の整った顔に耐えきれなくなった俺は、それを言い訳にして顔をそむけた。しかしそれすらも許してくれないシンドバッドさんは、俺の顔の横についていた手を俺のあごに添えて、実に鮮やかな手つきで顔の向きを戻させられた。またもや近づいたその瞳は、しかしいつもの余裕の色が見えていて、この人実は酔っていないんじゃねーの?と思ってしまったが、手のひらが俺の前髪をあげて、口を寄せてきたのでやはり酔っているらしい。思わず顔を真っ赤にすればシンドバッドさんは「かわいいねえ」なんて、良い顔でつぶやいてきたから、俺は口をパクパクと間抜けに開閉させるだけで何も言えなくなってしまう。
これなら、酒場で酔ったシンドバッドさんを自室まで運ぶ、なんて役目を引き受けなければ良かった。
そう後悔してももう遅い。だいたいいつもシンドバッドさんのブレーキ役に回っているジャーファルさんですらでろんでろんに酔っていて、とてもシンドバッドさんを寝室まで運ぶなんてさせられなかったのだ。アラジンやモルジアナは酔っ払ってはいなかったものの、アラジンは体格的に不可能、モルジアナなら可能だがどうも酔っ払ったシンドバッドさんと女性を一緒にするのは良くない。その場で一番の適役は俺しかいなかったわけで、だからこれは仕方がないというか、あれ?なんで仕方がないんだ?
というか、シンドバッドさんは毎回こんな感じなのだろうか?酔っていたらその辺の女性ならとりあえずこうやって、誰が通るかも分からない廊下で迫ってくるような人なのだろうか。だったらそれって、すごく、

「ふ、不秩序です!!非常識です、はしたないです!!!!」

思わずそう叫べば、シンドバッドさんはぴたりと動きを止めた。案外聞いたのか?と、この状況を打開できる兆しが見えた俺は、ここぞとばかりにまくしたてた。

「だ、だいたいシンドバッドさんいつもこうやってるんですか!?これならジャーファルさんが起こるのも分かりますし、そ、そういうことで疑われるのも無理ありません!!そもそもこんな廊下で…さ、最低です!!もうちょっと場をわきまえてください!!」

一息でそういえば、シンドバッドさんはこちらをじっと見つめて黙りこむ。少し言いすぎたか?と、何も言おうとしないシンドバッドさんに、俺は慌てて謝罪をしようと口を開いたところで「そうだな」と、ようやくシンドバッドさんの口からまともな言葉が飛び出した。今の大声でようやく酔いがさめて正気に戻ってくれたか…そう安堵のため息を漏らした、が、次の瞬間にはふわりと身体が持ち上がっていて。理解し損ねた俺だが、しばらくしてシンドバッドさんに横抱きにされていることに気がついて、慌ててシンドバッドさんの顔を見れば、そこにはもう余裕の色なんかはすっかり抜け落ちて、ぎらぎらと光る獣じみた瞳が。
ああ、これが欲情した瞳かあ、と、理解した。

「それは、ベッドならいい…と受け取っていいのかな?」






ちゅんちゅん、と、軽やかな鳥の声が聞こえるような、すがすがしい朝だ。
窓から差し込んでくる太陽の光が、その小鳥の声が、朝を示していて、それと同時に腰に走る激痛が、昨晩のことが嘘ではないということを示していた。
はあ、と小さくため息をついた俺は、ちらりと床に視線を落とす。そこには、寝ぐせのついた紫色の頭が、情けなく地面にこすりつけられている。

「す、すまないアリババ君、本当に、なんていえばいいのか…!!」
「…」

一向に頭を上げようとしないシンドバッドさんに、もういいですよ、と声をかけたが、その声もだいぶかれていて。それがさらにシンドバッドさんの罪悪感に拍車をかけたのか、頭から生えている触角がしなびた。

「いえ、本当に大丈夫ですよ」
「いや、しかし…!!」
「ジャーファルさんにも黙っておきますから」

そういった俺に、「え?」と聞き返したシンドバッドさんに背を向けて着替えながら、俺は言葉をつづけた。

「シンドバッドさん昨日そうとう酔ってましたし。女の人と見間違えるのも無理ありません。俺の未熟さが招いた結果ですし…」

「まあジャーファルさんに言っても、俺は男ですから、子供とかの心配はないですが…」と、そこまで言ったところで、シンドバッドさんが突然はね起きて、俺の肩をつかんで前を向かされた。

「…アリババ君、今なんて?」
「だから、俺男だから」
「いや、」

その前。そう真剣なまなざしでそう言われて、若干戸惑った俺が何も言えないでいると、今度はシンドバッドさんがため息をついた。別にこちらがため息つけられる立場じゃないでしょう!!そう言おうとして、突然方向感覚が狂ったように世界が回って、豪華な天井を背景にシンドバッドさんの呆れた顔が。

「まさかそんな風に思われていたとはな…」
「え?ちょ、何」

その先の言葉は、シンドバッドさんの唇でふさがれて。
見上げた先には、昨日のぎらぎらとしたそれが。

「鈍いなあ、アリババ君…」

分かってくれよ。そういったシンドバッドさんに、俺はまた何も答えられなくなてしまった。




色濃く光るその瞳
魅了されて仕方がない






以下お返事



こんにちはさや様、このえです。
遅くなってしまい、本当に申し訳ございません…!!しかもフリーということでしたので私の中のシンババを書いたらなんか二番煎じみたいに…ありがちネタすみません…
今回は企画への参加、ありがとうございました!!