照りつけて来る日の厚厚さは今日も健在だ。シンドリアの気候は南国の島ならではの高温多湿。今日のような暑さは珍しいわけでもない。しかしそれとこれとは別の話で、続く暑さに俺が慣れたわけではない。稽古場で、まだこの島に来たばかりのやつらはバタバタと倒れていくし、俺だって涼しい顔をして耐えられているわけでもない。こうしてあの金髪の弟子を待っている間だって、水分補給をする手が絶えない。額に浮かぶ汗をグイとぬぐうと、ようやく向こうから小さく声がした。
シンドリアは晴天、稽古場の気合も上々、俺のやる気もなかなかだ。
本日も何ら変わったことはない。そう、このソプラノヴォイス以外は。

「ししょー!!すみません、遅くなっちゃって…」

そういった俺の愛弟子は、俺と同じく額に浮かぶ汗をぬぐいながら申し訳なさそうに誤ってきた。そのこぼれおちそうな瞳はなぜかいつもうるんでいる(ように見える。)パタパタと服の胸元をつまんで涼をとっているその胸元にはそれなりにつけられた筋肉――はなく、柔らかな肉と、それから谷間。
俺は目元を覆った。どうしてこうなった。


ことの発端はあの魔法オタクだ。アラジンと作った魔法薬が偶然完成したらしく、二人で大喜びしていたらしい。が、本当に偶然出来てしまったものだから何が起こるか分からない。そこで何を思ったのか俺に飲むように脅してきた。死ぬような魔法式は命令していないだの、安全だだの言っていたが、偶然出来てしまった産物の実験台なんてまっぴらごめんだ。そう言って言いあいになり、次第にそれは取っ組み合いに発展し―――とうとうヤムライハが薬の入った瓶から手を滑らせた。そして不幸にも、その放物線を描いて飛んで行った薬は、アラジンと一緒に近くで俺たちを見守っていたアリババに振りかかり。
ピンク色の煙を巻き上げたその薬は、とんでもないことをしてくれた。
その金髪は長く伸びていて―最初はまたひげを伸ばすためのアレと同じ効果だと思っていた―しかし、その考えは、アリババの胸元を見ることですぐに打ち砕かれた。服の上からでもはっきりと分かる膨らみ。
そう、その薬は、アリババから大事なものを奪い、いらんものを与えてしまったのだ。



(あの魔法オタクはまた…)

ため息をついてちらりとアリババを見やる。おおきな瞳、長いまつ毛、淡く色付いた唇。元々母親似だったのか女顔だとは思っていたが、今のこいつは完全に女だ。おまけに無駄に胸がでかい。(にも関らず、次の日にやってきたこいつは下着をつけてこなかった。当の本人よりもこっちが慌てたものだ。)そして美しい金髪は腰までの長さになっていて、今はその頭にピンク色のハイビスカスをモチーフにした髪飾りが添えてある。なぜか大喜びしたピスティがアリババにあげたものだ。のんきなものだ。しかし、ヤムライハが解毒薬を作っているとはいえ、いつ男に戻れるかもわからないのにヘラヘラと笑っているアリババもアリババだ。笑いながらそれを受け取っている辺り、柔軟性があるのか、はたまたまんざらでもないとでも思っているのか。っというか、少しは自分が女だという自覚を持ってほしい。アリババの行動は男の時のそれと何ら変わりないのだ。

(美人なほうだからこそ質がわりい。この前なんか普通に男の脱衣所にいるし、今だって俺の方からはお前の谷間が丸見えなんだぞ!?分かってやってんのか!?)

そうだとしたら末恐ろしい。その可能性は低いが、それでもそれを指摘すると顔を真っ赤にしていそいそと胸元をきゅっとつかんで隠すものだからこちらも何とも言えない気持ちになってしまうのだ。こういうのをあざといと言うのだろうか。
なにも言わない俺に、アリババが「師匠?」と心細そうに言ってくるので、なんでもないと言って稽古を始めた。
女になっても、アリババの力量はかわってはいなかった。王宮剣術の剣筋も、受流しも変わらない。女になって俺もやりづらかったが、アリババが「いつものように稽古をつけてください!!」と言っていたから、その日もみっちりしごいてやった。今日もそれは変わらず、俺に一撃でもあてようと攻撃が盛んになっている反面、俺からの反撃がないと思っているのか足元への注意がなっていない。

「おら、足元への注意が散漫だぞ」

だから、そういって足を薙ぎ払えば、ぐらりとアリババの身体が傾く。そうして驚いたアリババはその拍子に悲鳴をあげ―

「きゃあ!!」

……きゃあ?

そう、かわいらしい悲鳴を上げたアリババは、そのままこちらに倒れこんできて、

「うお!?」

その悲鳴に面食らった俺と一緒に地面へ倒れてしまう。どっしーん、とでも表現できるような派手な転び方をした俺たちは、そのままアリババが俺の上へと乗ってくるような体制に。
むにゅり、と、俺の腕に肉の塊が押しつけられる感触。
ひくりと頬が引きつる。そんな俺にアリババは気付かず「ごめんなさい!!」と言って顔をあげた。
近い。とにかく近い。その大きな瞳も、長いまつ毛も全部が近くにあって。
もう中坊でもないのに、俺は情けない悲鳴を上げてアリババを弾き飛ばし、ヤムライハのもとへと走って行った。


ひー いず あ ぷりてぃがーる!!

「な、なによいきなりどうしたのよ」
「なんでもいいからはやく解毒薬作りやがれ馬鹿野郎!!」




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こんにちは壱子様、このえです。
遅くなってしまって本当にすみません!!にょたばばくんで、シャルアリということでしたが、本当に楽しかったです…!!外見まで指定してくださったため、すごく書きやすかったです!!にょたばばちゃんに動揺してしまう師匠がかけて、わたくしは満足です(((
それでは、遅くなってしまいましたが、5000企画への参加、ありがとうございました!!