03
数日後、俺は生徒会室には行かなかった。
「本当にいいんだね?」
豪華一色の部屋で向き合って、真剣な顔で聞いてくる見た目が若々しい男性はこの学園の理事長を務めている。
この理事長は転入生の叔父に当たる人だけど、生徒皆平等に接してくれている。だから、俺が全校生徒に嫌われてしまった時も相談や世間話にものってくれた。
だけど、それも今日で最後だ。
「はい、異論はありません」
「…後から退学した事を後悔するかもしれないよ?」
「…いえ、此処に残っておく方が俺にとって後悔してしまいます。それに、理事長!退学じゃなく転校ですからね!」
退学をしてしまえば就職も進学できないじゃないか。俺は親不孝者にはなりたくないから良い大学を探して親孝行したいと思ってる。
「ふふ、ごめんごめん。冗談だよ。」
「もー…」
30代後半のおっさんが何冗談を言っているのだか…。だけど、理事長の笑顔を見ると何かホッと力が抜ける。
「でも、広樹君がいなくなるとつまらなくなるね」
「…そう言ってくれるのは理事長だけですよ」
ありがとうございます。そう付け足すように言えば悲しそうに微笑む理事長。
「また、一緒に紅茶でも飲もうね」
「…その時は何処かいい喫茶店とか紹介して下さいね」
この学園に戻って来る予定は全くない。だから、この学園でではなく、何処かの喫茶店で。
「ふふっじゃあ、広樹君が好きそうな、いい店を探しておくよ」
「はい!お願いします!」
嬉しそうに微笑む理事長に俺も笑みをこぼす。
「ああ…やっぱり」
「え?」
じっと俺の顔を見てポツリと声を出す理事長に素っ頓狂な声を出してしまった。
「やっぱり、広樹君は笑顔が一番似合うね」
……俺が思うに、理事長は天然タラシだと思う。
モドル