03
風紀室を後にし、徹夜覚悟で眠ってしまわないために珈琲を買って帰る事にした。
寮にあるスーパーに入ると生徒は少ししかいなかった。
殆どの生徒はどこぞの企業の奴だから、寧ろスーパーにくるのは一般家庭の奴らばかりだと思う。確かに少なからず、金持ちの一人二人はいそうだが…
…ん?俺ってその内の一人なのか?
そんな事を考えながらも、珈琲を大量に買い込む。
買い込んでいるのは風紀室にも置くためだ。この頃、残業する委員もいて疲れているだろうからだ。
というより、生徒にここまでさせる先生もどうかと思うが、次期社長とかがいたら残業も勉強の内とでも言うだろうか。
…まあ、それはさておき和菓子を買おう…
確か、風紀の殆どは葛餅が好きだったはずだ。よし、葛餅を買おう。なら、珈琲だけじゃなくお茶も必要だな。
そう思って取り敢えず葛餅に手を伸ばした時だった。
コツ
「あ」
「…」
葛餅を取ろうとしたが、それは誰かと手がぶつかった事によって遮られた。
「風紀、委員長?」
「…羽山?」
何で羽山が此処に…?
目がパチリと合い、羽山は驚いたような顔でこちらを見上げている。
「ぁ、ぇと…委員長も葛餅、食べるんですか?」
「あ、ああ。俺と言うより風紀の奴らが好きなのもあるけどな」
「そうなんですか」
首を傾げて、苦笑をしながら聞いて来る羽山に何となく照れ臭さを感じて、思わず目を逸らしてしまった。
明さま過ぎたような気がして横目で羽山を見ると、羽山は優しそうに微笑んでいた。
「…羽山?」
「委員長って実は優しいですよね」
「そう、か?」
「はい。だって委員長って噂では鬼の風紀委員長とか言われているんですよ?」
噂はやっぱり噂ですね、と目を細めて笑む羽山を見て胸がキュゥと締め付けられたような気がした。
……俺、そんな事を言われていたのか。
少し落ち込み気味になっていると、羽山が視界の中で動いた。
「はい」
「…え?」
「葛餅、これが最後みたいですから」
どうぞ、と葛餅を俺に差し出す羽山。よくよく見れば、確かに最後の一袋だった。
「俺は部屋にストックがありますし」
絶対に嘘だ。
そんな事、分かっていながらも俺は羽山の言葉に甘えて受け取る。その際に羽山の指が俺の指と触れてしまった。
「どうぞ」
「あ、ありがとう」
羽山は気にした様子はないけれど、俺は今まででも感じた事のない変な気分になった。
ふわふわ?
ぽわぽわ?
ぽかぽか?
どれが当たりかも分からない。
分かる事はとりあえず、
「いいえ、どういたしまして」
触れた指先が熱くて、妙に心臓の音が自分の耳に響く事。
モドル