06



少し答えに近付いたかもしれないと思い、満足した気持ちになった。


「っつか、てめぇ。何でそんな質問したんだよ。しかも幸喜に」


ムス、とする会長に一瞬キョトンとする。
そんなに怒るほど変な質問だったのだろうか。


「それは怜斗にあの人に言ったら避けられるかもしれないと言われてな。それを考えると何か嫌な気持ちになって…森岡に避けられても別に嫌とは思わなかったからな。この中で森岡に聞いたのは、お前らが真面目に答えてくれる気がしなかったからだな」

「……」


嘘偽りなく答えれば、ポカンとする生徒会役員と森岡。少しの沈黙のあと、会計がポツリと「…それってアレだよね」と呟いていた。

それに副会長や庶務、ずっと黙っていた書記すらも聞いて良かったのかと言う顔で頷く。


「アレってなんだ?」

「…委員長って実は鈍感だったのー?」

「と言うより、ただの馬鹿ですね」

「…」


物珍しそうに言う会計と怜斗と同じようなことを言う副会長。お前ら本当は仲が良いだろ。

まあ、それはいいからアレとは何か教えて欲しいんだが。


「…取り敢えず、うん。委員長自身で考えるべきじゃないかなー?俺達は見守ることしか出来ないからねー」

「やっぱり自分で考えなきゃいけないのか…」


見守る、か。怜斗も俺が答えを出すのを見守っているワケか。

答えには辿り着けなかったが、取り敢えず答えは自分で探さないといけないことを学んだ。そんなに自分で考えないといけないほどなのかとも思ったが、怜斗もこいつらも言うんだから自分で答えを見付けないと、だな。


「ついでにあの人って誰か教えてくれたら嬉しいかなぁ?」


ニヤニヤとしながら聞いてくる会計に少しイラッとくる。羽山の事を知られたくないから「あの人」と言ったのに。

いや、知られたくないとはいえ会計も一応生徒会だから羽山の名前ぐらい知っているかもしれないが。会計の面白いものを見付けたと言わんばかりの顔を見ると絶対に言いたくない。


コンコン

「失礼します。2ーAの羽山海里です。書類を届けに来ました」

「どうぞ入って下さい」

「「「え、」」」


噂をすれば。

羽山の声が聞こえ、副会長が返事を返す中、俺以外に森岡と会長の声が被った。

二人は少し気まずげで森岡は扉を見れないのか視線をさ迷わせている。俺も話していた人だから気まずく感じるが二人ほどではない。

会長と森岡の場合は今会いたくない人だろうが俺はここ最近会ってなかったから、どちらかと言えば気持ちが落ち着く。


「失礼します」


森岡はアタフタとしていたが、まあ、逃げることなどこの場所にないので会ってしまうのだが…。

…いや、森岡の心配をしている暇はない。

ゆっくりと扉の奥から姿を現す羽山にドクドクと変に心臓がなり響く。

顔が見えはじめた時、書類に視線を落としていた羽山が顔を上げ、俺と目が合った。


「委員長、丁度よかった!この後、風紀委員室にも書類を届けなきゃいけなかったので」


途端、へにゃりと顔を崩す羽山に何を言うべきか。何かを言うべきだろうが息が詰まる。


「委員長?」

「あ、ああ。預からせてもらう」

「お願いします。あと、こちらは生徒会の会計様に渡すように言われたので」


書類を渡すと羽山は会計にも書類を渡していた。

会計は書類を嫌そうに受け取り「俺、今日命日かもー」と書類が大量に置かれた机に伏せた。


「…羽山って学級委員じゃないよな?」

「はい、俺は図書委員ですね」


ふと、気まずそうに会長が口を開けば羽山はキョトンとしながら言った。

…確か、書類を届けに来るのは学級委員の仕事なはずだ。


「学級委員が持って来るんじゃないのか?」

「今日は拓也…学級委員は熱で休んでて…帰り際に怜斗に出会いまして、生徒会に書類を出すよう頼まれて、そのあと風紀顧問の立花先生に「お前は今日は災難な日だと思え」とか言いながら風紀の書類を渡して来たんですよ」


最初こそは困ったように苦笑しながら言っていたのに、段々と暗くなりながら言っていた。

その際「本当、災難な日だよね。朝は担任に荷物運び手伝わさせられるし昼は不良に絡まれるは逃げようとしてずっこけて哀れに思われて飴貰ったし、あの優しさ辛かったなー」と最後は遠い目で呟いていた。

その姿を生徒会だけでなく森岡までも哀れな目で見ていた。


「あー…大丈夫か?」

「何とか…」


困ったように笑う羽山にもやもやする。そんな顔しないで欲しい。して欲しくない。

俺を頼って欲しい。

それは風紀委員長として不良を見逃せないから?でも聞いた話、飴くれる程いいやつだったらしいし…。
それもモヤモヤする。苛々する。

俺はいつも風紀の仕事で忙しくて懲り懲りしてるのに、どうして羽山にはこんなにも頼って欲しいんだろうか?


気が付けば、羽山の腕を掴んでいた。

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