05
頭の中で「ばれたからには仕様がねぇ!」と悪役のセリフが流れた。
いや、だから騙してないって。チキンだから言えなかっただけだし、ばれたからもういいやって諦めてる自分がいるだけだし。
自分の思考に自分でツッコミながらも、はあ、と疲れて溜め息をつけば、斉藤は目を輝かせた。
「分かった!」
はい、先生!俺には何もわかりません!!
「透!玲人が好きだから気を引こうとして、さっき泣いたんだろ!!最低だぞ!!」
…ああ、なるほど…
まだ引寄せられたことか頭撫でられたことか分からないけど、根に持っているんですねー。さっきの俺の否定は何処へ。
「はあ…斉藤、いい加減にしろ。お前が無理に手を引っ張ったから宮下が手首を怪我したんだろう…」
「会長…」
よく分かってます会長!!
だけど、言葉にはご注意を!怒りの矛先は我にあり!!
「そんなの言わない透が悪いんだろ!絶対、玲人に声を掛けられたくて痛いフリをしたんだ!!」
ど う し て そ う な っ た ww \(^0^)/
「っもーヤダー!!この勘違いぃ!!」
頭痛いし手首痛いに胃が痛い!!何でそうなんのかな!?何でそうなんのかなぁ!?
「だって痛いくらいで泣かないだろ!」
「それ君の感覚でしょー!!何で分かんないかなぁあ!!」
「み、宮下くん落ち着いて…」
「副会長は黙ってて!!」
「はい!!」
あああ!!イライラするわぁあ!!
何ですかコイツ!何ですかコイツゥウ!!
はい!宇宙人です!!
「大体さぁ!斉藤の所為でどんだけこっちに迷惑掛かってんのか知っているの!?斉藤に振り回されて親衛隊には目を付けられるし!何が「友達いないんだろ?俺が友達になってやる」だ!「親衛隊のせいで生徒会に友達が出来ない」だ!!俺友達いたけど、斉藤に関わったせいでいなくなったんだよ!親衛隊のせいもなにも俺は斉藤のせいだよ!!それに生徒会の皆様もちゃんと友達いるし!知らないの斉藤だけだし!!一人でいる所しか見たことないだけでしょーが!!勘違いも程々にしてよねー!!」
息継ぎなし!今日の俺の口絶好調!!
はあはあ、と息を切らして、とりあえず酸素をと呼吸を入れ換える。
「あと、」
もう一度口を開いたら、ビクッと斉藤が肩を揺らした。心なしか顔が青い。
「騙してないからね。俺ってチキンだからそんな愚痴とかキレたりしないと言えないの。今みたいに!!…涙がどうとか言ってたけどさ、今スッキリしている所で分かったんだけど、あれはストレスだね。今ので発散しちゃったよ…」
久々にキレたけど、ここまでスッキリなのは初めてだよ。未だに手首は痛いけど
「で、でも玲人が俺を好きな事には変わりないし透も玲人が好きなんだろ!?」
「何をどうしてそんな勘違いが生まれたのかわかんないんだけど。どうしてそうなったんですかー?」
爆発して吹っ切れている俺の口は止まらない。
斎藤の言葉に再びイラッとしながらも、笑顔で問いただす。
「見れば分かるだろ!!透、俺が親友だって言う事を利用して玲人に会いに来てんだから!」
「理解に苦しむ」
どうだ!と言うように言う斎藤に思わず無表情になってしまった。
途端、視界の中で会計様が肩を震わせる。口許抑えてるから笑い耐えているのだろう。肩を叩かれている書記様が迷惑そうだ。
第一、勘違いし過ぎにも限度がある。
「あーあ…イタイなぁ」
「っほら!そう言って玲人の気を引こうと…」
「は?違うからー。斎藤の勘違いがイタイのー。てか、斎藤の相手するの疲れたからもう保健室行っていい?」
相手をするのも本当に疲れてきた。斎藤はどうしても俺が会長をLOVE的な意味で好きだから邪魔するって事にしたいらしいし。
確かに会長は好きだけど、それは斎藤や親衛隊とは違うLikeの方でどちらかといえば憧れてると言った方がしっくりくる。
スッキリしたはずなのに、どうしよう。イライラが募っていく。
「逃げんなよ!」
「うっざい!俺は君に振り回されて生徒会室にいるんだよ!?君が俺を会長から遠ざけたいって言うなら俺を生徒会室に連れ込まなければ良い話しじゃない!人に取られる心配すんなら金輪際話しかけないで!!」
肩を掴まれそうになり、何とか逃れる。
そんなに迷惑に思っているのなら、と正当なことを言えば斎藤は顔を歪めた。
「せっかく親友にしてやったのに!」
「“勝手に”の間違い。上から目線で嫌がることをする人は親友とは言わない」
「な!」
「良かったじゃん、俺と縁を切れば生徒会と関わらないし、君にメリットいっぱいでしょ。だから、もういいよね」
自分でも驚くほどトゲトゲしい冷たい声が出た。
斎藤は怒りからか顔を真っ赤にさせ、しかし何とも言えないのか口をパクパクさせていた。
…うん、もういいや。
再起不能の間に出ていこう。
「生徒会の皆さま、見苦しい所をお見せして申し訳ありません。あと仕事の邪魔をしてすみません。今後はないので安心してください。…斎藤はどうにも出来ませんが…」
騒いでしまったため、出ていく前に謝罪を申し上げる。怒った状態で帰るのも失礼なため、せめてもの笑顔で言ったが、出来ていたかは不安である。
「あ、いや」や「え、あ…うん」など曖昧な声が聞こえたが早く出て行きたかったため、「では」と言って扉の前でまたお辞儀をして生徒会室を後にした。
…これで少しは平和になるだろう…
ああ、嬉しいこと、この上ない
モドル