ラストワルツを君と


―――あと、一歩だった。
今年も、表彰台に上るまで、あとひとつだったのに。


ピピーっと。試合終了の笛が鳴った瞬間、泣き崩れるチームメイトたち。そんな中で一人、私は立ち尽くす。
泣けなかった。どうしても、泣けなかったんだ。

千鳥山中学女子バレーボール部。
強豪とは呼ばれるが、実際には白鳥沢中等部や北川第一中学の超強豪校が同じ県にいるため、全国大会への切符はどうしても手にすることはできずにいた。『今年は』『今年こそは』そう言い続けて何年になるだろう。

今年こそは、絶対に私たち千鳥山が全国に。
それを目標に日々練習を積み重ねてきたのに、結局、また今年も白鳥沢に負けた。悔しい。悔しくって、たまらない。でも、悔しがったって始まらない。


「ベストリベロ賞おめでとう、西谷」
「…桐沢だって、ベストセッター賞じゃんか」
「…がんばって、よかったよね。3年間」
「当たり前だろ!」


仲間たちと共に、汗を流し、笑って、泣いたこの体育館。そこには、私と西谷だけで。いつも、試合が終わった後は二人で体育館に戻って、反省会だった。それが、私たちの試合からの流れで、今日もそれが持続中。

涙を流しながら、私たちは空を見上げる。悔しさをバネに、今まで頑張った。その時間は、無駄じゃない。決して、無駄じゃないから。そんな言葉を誰かから聞きたくて、この言葉を放ったのは、きっと、西谷にはわかっていて。

私だって、分かっているじゃないか。練習した日々は、絶対に間違ってなどいない。後悔なんてしない。なのに、なんだろう。この、喪失感は。


「…っ悔しい――っ!」


悔しい。悔しい。悔しい。
その言葉ばかりが、口から零れる。あんなに頑張ったのに。あんなに、練習したのに。私自身もベストなコンディションで、私たちのベストで戦って。何も、いけなかったことなんてなかった。けど、負けた。

『自分たちのベストが出せたから、悔いなんてない』
そんな言葉は到底私には出せなかった。自分たちのベストが出せたからこそ、悔しいんだよ。それだけ、相手のほうが上だったんだって、練習した量は無駄だったんだって言われているようで。


「高校じゃあ、負けねえ…!」
「…そうだね」


絶対高校では、負けない。
そんな気持ちで、乗り込む。

女子の制服が可愛い、男子の制服が黒の学ラン、家から近いという理由で西谷は烏野高校へと進学を決めた。青葉城西とかからも誘いがあったらしいのに。一方私も、推薦で進学だ。


「桐沢は白鳥沢だっけ」
「そうだよ。…今日、負けたところ」
「…そっか」


今日の悔しさを知って、白鳥沢に乗り込む。
あの、天才集団の中に乗り込んで、私がレギュラーを取ってやる。
そんな野望を胸に抱いで。


「中学ラストの試合はどうでしたか、西谷さん」
「…ははっ、鬼だな、桐沢は」

「…でもこの負けが、明日の私を強くする」


そう、信じてる。そう言えば、西谷も『そうだな』と頷いて。ラスト反省会も、これでお開きだ。



((end))
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