「あ、若。おかえりなさい」 「…この時間はまだ仕事だろ。どうしているんだよ」 「えーっと…部長に顔色悪いから帰れって言われちゃった」
2社の説明会をはしごしてから家に帰った俺を待っていたのは誰もいない部屋ではなく、エプロンを着てキッチンに立ち、おたまを片手に料理をしている名前だった。
「おい……それなら寝ろよ」 「大丈夫だよ!昨日はせっかくの若のお誕生日だったのに途中から仕事しちゃったから、今日は気合いを入れて料理したいの!ほら、若はソファーに座ってて!」
名前は点けていたガスコンロの火を一旦止めると俺が着ていたスーツのジャケットを脱がし、そのまま奪ってしまう。
「…何だか私たち、夫婦みたいだね」 「!?」
名前がさらりと口にした発言は俺にとって爆弾発言以外の何物でもなかった。
「これからは若のスーツ姿がいっぱい見れるんだよね…今は着させられてるって感じだけど、その内カッコよく着こなすようになるんだろうなぁ…この前まではこんなに小さかったのにね。成長ってすごいよね、うん」
スーツの上着をハンガーに通しながら俺の部屋に向かった名前の背中を思わず凝視した。俺にとっては爆弾発言でも、名前にとってはたまたま口から出た言葉に過ぎないのだろう。
二十歳を過ぎても俺が子供扱いをされている事は変わらなかった。いつになったら…俺が何歳になれば、俺は名前と対等な関係になれる?
「!? ちょっ、若…?」
気付けば、俺の部屋から戻って料理を再開した名前の身体を後ろから抱きしめていた。身体が勝手に動いていた。
|