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THREE!




【徳川カズヤ選手、3回戦へ進出!】



毎晩、スポーツ専門のニュース番組を見るのが私の日課だ。今の時期、朝や夕方のニュースでも毎日のようにウィンブルドンについて報道されているけれど、私は昔からこの番組を見るのが好きなので、これしか見ていない。他のスポーツの時はそれをBGMにしながら月刊プロテニスなどを適当に捲って眺めている事が多い。お陰様でテニスに関する知識だけは選手並みにあったりする。プレイは全然ダメだけど。



【今夜はウィンブルドン特集と言う事で、現在ウィンブルドンで活躍中の選手たちに突撃インタビューをした模様をお送りします!それではVTRをどうぞ!】



司会の人の言葉と同時に、画面がパッと切り替わった。ウィンブルドンに出場している選手って事は…



「カズヤ出る!!?」



慌てた私は思わずソファーの上で正座をして、テレビの液晶画面を凝視した。インタビューに答えているなんて聞いてないよカズヤ……いつものことだけど。



【まず1人目は、越前リョーマ選手です!】

【…どうも】




しまった録画しなきゃ…と思ったら1人目が越前くんだったので私はソファーから降りてテレビ台の下段あるブルーレイを起動し、録画ボタンを押した。



「あ…」



間に合ったのは良かったけれど、こんなわざわざ本体から操作しなくてもリモコンから出来たのにどんだけ慌ててるの私…と自分の落ち着きの無さに若干呆れてしまう。とにかく、カズヤが1人目じゃなくて本当によかった。



【………手塚選手、ありがとうございました!では、次は跡部景吾選手です!】



あれ…中々カズヤの出番にならないなぁ。もしかして、省かれてる!?どうしよういなかったら…。この前バラエティ番組に出た時にあまり喋らなかったから、インタビューのメンバーから抜けちゃったとか?だってあの時のカズヤはひな壇の一番後ろに座っていたし、ほとんどは今テレビに映っているこの跡部くんという選手が話していただけだったし、喋らなかったのは仕方ないと思う。

何で今の日本の選手って…こう…個性豊かなのかしら。



【最後に、跡部選手を応援してくれている日本のファンに一言お願いします】

【ウィンブルドンでも、俺様の美技に酔いな!】




うっわー…他の人が言ったら引いちゃうけど、この人には似合いすぎた台詞だ。きっとテレビの前にいるファンは卒倒しているだろう。カズヤだったら絶対に言わないよ…。



【それでは最後に、徳川カズヤ選手にお話を聞きたいと思います!】

【…どうも】




「わっ…」



カズヤきた!!!良かった!!省かれてなかった!あいさつが最初の越前くんと同じだったのはこの際気にしない事にする。



【今回で3回目のウィンブルドン参加ですが、コンディションは如何でしょうか?】

【…いつも通りです】

【…そうですか。では、試合に対する意気込みをお願いします】

【前回よりも良いテニスをして、良い結果を残したいです】

【…成程。本日の試合では見事優勝候補の選手を倒しましたよね。これは徳川選手にとって良い勢いづけとなったのでは?】

【そうですね】

【…】

【…】




やばい、インタビューしてるアナウンサーの人黙っちゃったよ!「そうですね」だけで答えるのやめなさいって最後に会った時言ったのに!インタビューの人もきっともっとカズヤから何か返事が返ってくると考えていたんだろうなぁ。甘い甘い、カズヤはプロになる前もなった後もたくさん喋る事が苦手なんだから。でもカズヤだって「自分のテニスが出来ました」とか、言える事いっぱいあると思うんだけど…



【えーっと……このウィンブルドンが終わったら、何をしたいですか?】



ほとんどの人が「ゆっくり休みたい」と答えていたこの質問…カズヤもきっと休息を取りたいとか言うんだろうなぁ…



【大切な人に伝えたい事があるので、すぐにその人の所に向かいたいです】



インタビューが始まってから一切カメラの方を向かずにアナウンサーのネクタイあたりを見つめていたカズヤがそう言った後、いきなりカメラに目を向けてじっと見始めた。

テレビ画面を凝視していた私は、まるで、テレビを通してカズヤに見つめられているような気がして、瞬きを忘れてカズヤの綺麗な目をじっと見てしまった。



【大切な人…ですか?】

【はい。俺がテニスを続ける事が出来るのは、その人のお陰なんです。いつも俺を応援し、支え続けてくれているその人に、感謝の気持ちを伝えたくて】

【その方は…徳川選手のお友達ですか?それとも…】




―――恋人ですか?アナウンサーはそう続けた。世間では一応カズヤには恋人はいない事になっているし、私がカズヤの恋人だという事を知っている人物も少ない。だけど、今カズヤが言った"大切な人"が恋人を指すのかは、分からない。



【…ご想像にお任せします】



カメラを見ながら、ふっ、と笑みを零し、カズヤは言った。テレビに出ている時どころか私と2人でいる時すら滅多に笑ったりしないのに。"大切な人"の事を考えているだけで、こんな簡単に笑うんだ…。



【…それでは、以上で全ての選手のインタビューを終わりにします。皆さんが明日からの試合も活躍し、勝ち進んでいくことを祈っております】



なんだかそれがショックで、その後のインタビューが全く耳に入って来なかった。インタビューはいつの間にか終了していて、既に他のスポーツのコーナーに移っていた。録画したから見過ごした分はすぐに見られるけど、どうしても、そんな気にはなれなかった。


"大切な人"とは誰なのか?カズヤに私の他に彼女がいるとは思えない。まず、そんな時間は作れないはずだ。鬼さん?入江さん?…何か違う気がする。ご両親だったら両親って言うと思うし…考えれば考えるほど、訳が分からなくなってしまった。