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「…え?」



声を出した後、私はすぐに後悔した。









今日は我らが立海男子テニス部の試合が行われた。全国大会初戦の大事な試合という事で、私を含む生徒会役員と有志で集まった応援団で、男子テニス部を応援していた。

全国大会と言ってもうちのテニス部は全国大会連覇中の強豪なので、大して苦戦した様子は無かった。けれど、選手から「暑い中集まってくれてありがとう。次も来てほしい」と私たちに向かって投げられた言葉に感動して、決勝までずっと応援しに行きたいと思った。


試合が終わった後、私は生徒が持っていたペットボトルなどのゴミを袋に入れて回収し、会長が買ってくれた棒アイスを舐めながら、会場にあるゴミ捨て場に捨てに行こうとしていた。其処には見慣れた背中があって、私はすぐに声を掛けようと近寄った。



「柳、試合お疲れ様!」

「…ああ。苗字か」



生徒会で一緒の柳が、ゴミ箱に何かを捨てていた。ゴミ箱の中に入っていったそれを見て、私は思わず大きく目を見開く。



「それ…ファンの子から貰ったプレゼントだよね…?」

「そうだ。貰った物をどうしようと、こちらの勝手だと思うが」

「…まだ何も言ってないんだけど」

「目は口ほどにものを言う、ということわざを知っているか?」

「…」



それくらい知ってる…と言いたかったのをなんとか抑えた。手作りの食べ物とか、この季節に食べるには少々危ないようなモノを貰っているのだとしたら柳が言っていることもある意味正しいけれど、何もこの会場で捨てなくてもいいのではないのだろうか。現に、私がこうやって遭遇してしまったわけだし。



「此処で捨てなくてもよくない?」

「荷物に入らないのだから仕方ない」

「手紙くらいなら入るんじゃないの?」

「あれは俺宛ての手紙ではない。捨てるなら一緒に捨ててくれと頼まれた」



私がゴミ箱の中にあったピンクの封筒を指差すと、そう答えられた。何だそれ、最悪じゃん。誰だよ。



「今の俺達に必要なのは練習する時間、それだけだ。だから、応援だけで充分だ」

「皆そう思ってるの?」

「さあな。少なくとも、俺はそう思っている」

「…」



ひどい…どんな思いでファンの子たちが差し入れを用意したり、手紙を書いてきたのか分からないのか。一年の時からずっと応援していた身にとって、とてもショックだった。柳は頭が良いんだから、それくらい分かるはずだ。それなら、最初から気持ちだけで充分なので必要ないですって言えばいいのに。


ゴミ捨て場に行った後そのまま選手たちが待機している場所に行って、今手に持っている差し入れの棒アイス1箱を生徒会からとして渡そうと思ったのに、このままだと柳と一緒に行くことになってしまうし、困ったな。今は、一緒にいたくないのに。



「そうだな…お前からなら受け取ってやってもいい」

「何それ…柳にあげるものなんてないし、無理に食べてもらわなくて結構!柳にあげるくらいなら私が美味しく頂きますから」

「此処でわざわざ箱を開けなくて済むし、手間が省けて良かったな」

「!?」



突然、棒アイスを持っていた手を柳に掴まれた。何この人私のアイスを奪うつもり?そんなこと絶対にさせるものか!…そう思った私は咄嗟に身を捩って柳の手を無理矢理離させて、残りの一口を口に入れると、目の前に移動してきた柳に顎を掴まれて、ぐいっと思いっきり上に向かされた。



「〜〜〜〜っ!?」



私の唇と柳の唇がぶつかって、すぐにぬるりとした感触を歯を通り越した上顎と舌に感じた。それが気持ち悪くて、私が柳の身体を突き飛ばした頃には、口にあったアイスは無くなっていた。溶けて無くなったのではなく、柳に取られたせいで無くなってしまった。



「ご馳走様」

「………」

「…やはり夏は宇治金時に限るな」

「ちょっと!!!」



涼しい顔をしながらしれっと言っているけど、コイツがやった事は重大な罪だ。私のアイスをファーストキス諸共奪った。何回だって言ってやる。重罪だ。謝っても絶対に許さない。一回殴らないと気が済まなかった私は、柳に攻撃をしようとアイスが無くなったただの棒を柳の顔に向かって投げたけど、あっさりと避けられてしまった。しかも、持っていたアイスの箱もいつのまにかヤツに取られていた。



「食べた後に文句言うくらいなら食べないでよ!!宇治金時じゃないって見れば分かるでしょ!!」

「これは俺が持って行って部員に配っておくから、お前はもう帰れ。暑い中来てくれて嬉しかったぞ」

「人の話聞いてる!?あと今更そうやって微笑まれても許さないから!アンタの本性、皆にバラしてやるんだから!」

「ふっ、言ってみろ。大方信じないだろうがな」

「…最低!」

「次の試合も、苗字からの差し入れを楽しみにしている」



言葉にはしていないものの、絶対に来い、と言いたいのがびしびしと伝わってきた。何だこれ怖い。怖すぎる。次の試合は仮病使って応援するのをやめようかと思ってしまった私に、とどめの一言が突き刺さった。



「ああ、仮病を使って来ないつもりなら前日に貰ってやろう。今みたいに、な」



こんな貴方は
誰も
知らない


20130506