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「いったー…」



毎日昼休みに体育館でバレーやバスケをしている私は勿論今日も体育館に来て遊んでいたのだけれど、友達から来たパスを上手く受け止める事が出来ず、ボールを人差し指に強くぶつけてしまった。思わずその場にうずくまるくらいに痛がった私を心配した友達に"突き指したかもしれないから保健室に行った方がいい"と言われ、名残惜しいのを抑えて保健室に向かった。

保健室は薬品の臭いがするからあまり好きじゃないけれど、自分ではどうしようもないので仕方なかった。早く、友達のいる所に戻りたいよ…!










「失礼しまー………あっ!」

「…ん?」



保健室に入ると、先生はいなかった。代わりに白石くんがいて、びっくりした私は声が裏返ってしまった。

白石くんはテニス部の部長で、保健委員。四天宝寺中の女子生徒のほとんどが興味を持っている白石くん。私もそんな彼のファンの一人だった。勿論彼は私の事は知らない。私が一方的に知っているだけ。



「えっと…ボールが人差し指に思いっきり当たって…痛くて…」

「ああ…それはきっと突き指やな。今先生いないから勝手に判断出来ないんやけど…とりあえず今冷やすモン持ってくるから、その間にそこにある表にクラスと名前を書いておいてもらってもええかな?」

「……ごめん、利き腕だから書けない…」

「あ…気付かなくてすまん!じゃあ俺が書くからクラスと名前、教えてくれへん?」

「ごめんね!えっと…3年の…」



申し訳ないと思いつつ、自分のクラスと名前を白石くんに教える。白石くんは包帯を巻いた手で字を書いてくれた後、氷と水を取りに行った。

さっきまで白石くんが持っていた表には、汚くもなく癖字でもなく、シンプルで綺麗な彼らしい文字で書かれた私の名前。名前を書いてもらえたのが嬉しくて、思わず苗字名前と書かれたその場所を指でなぞってしまった。



「この袋に水と氷を入れといたから、これをずっと人差し指に当てといてな」

「ありがとう…!つ、冷たい…!」

「冷たくて辛いやろうけど、我慢や。早く治す為にやで。あと、絶対に指を引っ張らない事。ええな?」

「う、うん…ありがとう!」



そっと人差し指を触られて、顔が一気に熱くなっていくのが分かった。だって、あの白石くんが私の指を触っているだなんて…。ちらりと白石くんの顔を覗くと、微笑んでいた彼の目と合って、すぐに視線を逸らしてしまった。



「それじゃあ、私、戻ります!」



もっと此処にいたいなぁと思ったけど、きっと白石くんも保健委員として色々と忙しいかもしれないし、何より私の心臓がこれ以上持ちそうに無かったから、早々に出て行くことにした。



「お大事にな、苗字さん」



私が彼にお礼を言って保健室を出ようとすると、遠くなった彼の方から、聴きなれた私の名前が聞こえた。


白石くんが、私の名前を呼んでくれた。さっき書いたから私の名前を憶えていてくれているのは当たり前…そんなことは分かっているのだけれど、一時の事でも私のことを心配してくれたんだって思うと、嬉しさが一気に込み上げてくる。見ていただけの人と初めて喋って、名前を呼ばれた。こんなに嬉しい事があるのだろうか。



早く体育館に戻って、友達に報告しなくちゃ…そう思う足取りは軽く、指の痛みも少しだけ和らいでいた気がした。またいつか、私に笑いかけてくれる日があったらいいなぁ。



わたしだけに
笑ってなんて


20130428