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あーもう!早く皆帰ってよ!



ついにやってきてしまったバレンタインデー…今私は、昨日友達と一緒に作ったトリュフをカバンの中に忍ばせつつ、私と彼以外の生徒が教室からいなくなるのを待っている。

お目当ての日吉くんは私の隣の席で日誌を書いていた。


このバレンタインデーの日に1年の時からずっと好きだった日吉くんと日直になれるだなんてもしかしたらこれは運命なのかもしれない…!と、一週間前、たまたま日直になる日が気になって数えたことでそれに気付いた私は、この機会に日吉くんに告白しようと心に決めたのだった。



でもやっぱり恥ずかしいしフラれてしまった時の事を考えると、やっぱりやめた方がいいのかなぁとか色々と考えてしまい、今日一日中何回も渡すのを諦めようとしていた。



「苗字」

「! な、何?あ、もう書き終わった?」

「ああ。俺が出しておくから苗字は先に帰っていい」

「いや、書いてもらったし、私が持っていくよ!」

「これから部活に行くのにどうせ下の階に行くんだ、だから俺が持っていく」



かばんを肩にかけながら私の前に立っていた日吉くんはさっさと部活に行きたいと言いたげで、その勢いで日吉くんにそのまま日誌を職員室に持って行ってもらう事になった。



「あっ…!」



チョコ渡してない…!頭で何かを考えるよりも足が先に動いていて、いつの間にか教室を出て階段を駆け下りていた。職員室を覗いてみても日吉くんはいなくて、既に提出済みのようだった。



だとすると、もうテニスコートに向かってる…?



◎○●



はぁ、と息を切らしながら再び走っていると、昇降口に着いた。F組の下駄箱がある場所を覗くと、日吉くんが上履きを下駄箱にに入れている最中だった。良かった、間に合った…!



「…苗字?」

「はぁ………あ、あの!日吉…くん!」

「おい、大丈夫か?息切れしてるぞ」



日吉くんは突然の私の登場に驚いていた。そりゃそうだ。だけど今はそんなことを気にしている場合じゃない!ここまできたら渡すしかないでしょ!



「これ!」

「?」

「ば、バレンタインのチョコ…!」

「…ああ、」



私のかばんの中から出てきた可愛らしい紙袋を見た彼は、先ほどよりは驚いていなかった。跡部先輩ほどじゃないとはいえ日吉くんだってチョコを貰っているはずだし、「またか」って感じなのだろうか。



だけど来年の今頃は受験だし、こんなことができるのは今年で最後かもしれない。だから、



「貰ってくれると嬉しいんだけど…」

「…これは個人的なモノか?」



個人的なもの?個人的なものってこどういうこと?本命チョコかそうでないかってこと?でも義理チョコだって1人で作って個別に渡すこともあるしその場合だって個人的なものになるんじゃないの?どうしていきなり難しいことを言うのだろう…


何にせよ今年は義理チョコは市販のもので済ませたし、心をこめて作ったのは私の手にあるこのチョコだけだ。日吉くんが言っている意味の個人的なもので間違いないはず。



「…そうだよ、日吉くんにしか用意してない」

「そうか。ありがとう」



そう言って日吉くんは私から紙袋を受け取ってくれた。良かった。とりあえず渡せた。



「来月…期待しておけ」

「…え?何を?」

「お前は馬鹿か。お返しに決まってるだろ…お返しをしなければ、俺の気が済まないからな」

「そんな、お返しだなんて、」



勿論お返しが欲しくて渡したわけじゃないし、私はこれを渡せただけでもう充分なのに…!



「勘違いするな。お返しはお前にしか用意しない」

「わ、私だけ…!?」

「ああ。その時に苗字の気持ちに応えてやる」



「じゃあ俺は部活に行く」日吉くんは私に背を向けて歩いていってしまった。今何て言った?お返しは私にしか用意しない上に来月は私の気持ちに応えてやるって…つまり…そういうことだよね…?



下駄箱のすぐ近くにある出口からひゅう、と入ってくる風はとても冷たかったのに、私の顔は段々と熱くなっていった。



20130214