丸井にもらった美味しそうなカップケーキを食べようとしたその時、彼は現れた。
「…Trick or Treat、なんてね」
振り返ると、そこには幸村が立っていた。
「幸村だ!」
「ふふ…楽しそうだね、苗字」
「うん!丁度ね、丸井にもらったお菓子を食べようとしてたの」
「ふうん、丸井に貰ったんだ…それ」
「丸井の手作りなんだよー!絶対美味しいよね!よし、いただきまーす…」
「…………」
「ちょ、え、」
私が丸井にもらったカップケーキを食べようとしたその瞬間、なんと、幸村は私の手にあったそれを奪ってきたのだ。
「ちょっと、幸村!何するの!?返してよ!」
「これは俺がもらうよ、美味しそうだし」
「幸村には私が作ったクッキーあげるから、」
「苗字が作ったお菓子なんて、安心して食べられないよ」
ひ、ひどい…!それなら丸井に直接もらいに行けばいいのに!幸村にだったらきっとくれるはずだよ…
取り返そうとして私が必死に手を伸ばしても、その手がカップケーキに届くことはなかった。
「せめて半分こしようよ…、ね?」
「だめ。これは、もう俺のものだから…それじゃ、いただきます」
「あー!ホントに食べた!」
「………ん、流石に丸井が作っただけの事はあるね」
ずるいよ、幸村…丸井にもらったのだって、苦労したんだよ?私の作ったクッキー5袋分でやっと1つもらえたのに…それを横取りなんて…たった一口でぺろりと食べてしまうなんて…本当にひどい!
「最悪だよ幸村…それに、」
「それに?」
「食べたら丸井に感想を言う約束したのに…」
「…………」
「一口も食べてないのに感想を言うのも、食べられなかったって言うのもやだよ…」
それって、作ってきた丸井にすごく失礼だもの。あーあ、なんで幸村に会っちゃったんだろう…
目の前にいる幸村は何か思いついたのか、にこりとこちらへ微笑みかけてきた。幸村の笑顔に騙されるわけにはいかないんだからっ…!私はその辺にいる女の子とは違う…!
「苗字、」
「…何」
「そんなに怒らないでよ。いい事思いついたからさ」
「っ…!?」
幸村に言われたことをまだ理解していない内に幸村に顎を掴まれてぐいっと上に向けられ、気が付いたら自分の唇と幸村のソレが重なっていた。
「んっ…、っ、」
ゆるりと入ってきたのは紛れもなく幸村の舌で、カップケーキの甘い味がじわりと口の中に広がっていった。
息苦しくなって、幸村の胸を叩くと、あっさりと解放してくれた。
「なにするのよ!」
「だって…もうお菓子はないのだから、こうするしか味わう方法はなかっただろ?」
「だからって…」
「もしかして、まだ足りなかったの?」
もう一回しておげようか?という幸村の言葉を無視しようとしても、それは見事に叶わなかったのであった。
「苗字、顔赤いよ?実はまんざらでも無いよね、俺とこういう事するの」
「……っ!」
反論、出来なかった。
20111115 - 前サイトにて掲載
|
|