「ひーよーしーくーん!」
「……………」
「Trick or Treat!」
後ろ姿ですぐにわかる大好きな日吉くんの背中に向かって、ハロウィンの時に必ず言うあの台詞を叫んだ。
「苗字か…なんだよ、その恰好」
「ハロウィンのコスプレだよ!」
「………そうか」
「さあ日吉くん、お菓子頂戴!」
私は日吉くんの前に手を差し出した。大好きな日吉くんに何かもらえるかもしれないというこんな大きなチャンス、逃したくない。ここは多少図々しくなっても、ハロウィンだからという理由で許してもらえるはず!
「…ないな」
「え、」
「お前にあげるお菓子なんてないぞ」
そんなぁ……でも…男子だもんね。お菓子なんて持ち歩いているわけないか…普通に考えればわかることだったかも。
「そうだよね、日吉くんが飴とか持ち歩いてるわけないよねー!」
「………」
「あ、私跡部部長のところに行ってこようかな…」
跡部部長ならイベント好きだからお菓子持ち歩いてるはず!(高級な)お菓子とかいっぱい持ってそうだし…そうだ、跡部部長の所に行こう。
とりあえず日吉くんが他の人にTrick or Treatと言われても大丈夫なように、私の持っているお菓子を手渡した。
「それじゃあ、私、跡部部長探してくるね、」
「待てよ」
「ちょっ…!危ないっ、」
日吉くんがいきなり私の腕を引っ張ってきたので、思わず転びそうになってしまった。
「日吉くん…どうしたの?」
「跡部さんのところには…行くな」
「え、なんで…?」
「…とにかく、行ってほしくないから行くな!」
こんなに焦っている日吉くんなんて、初めて見た。一体どうしたの…?
日吉くんは私の腕から手をを離すとかばんから何かを取り出し、私に渡してきた。
「これ、やるよ」
「え、」
「なんだよ、その顔…だからあげたくなかったんだよ」
もらったお菓子を見ると、お煎餅?が手に乗っていた。
でも…これ、普通のお煎餅とはちょっと違うような……
「濡れ煎餅だ」
「ぬれ…せんべい?」
「普通の煎餅よりもしっとりとした歯ざわりで、醤油の味が濃厚なんだ。俺の好きな食べ物だよ」
「日吉くんの好きな食べ物!!?」
今私の手に乗っている、この、濡れ煎餅という食べ物は…日吉くんの好物…?全然、知らなかった…
「な、なんだよ…悪いか?」
「ううん、すごく嬉しい!」
だって、日吉くんの好物を知ることが出来たんだから!これでまた一歩、日吉くんに近づけたかな…?
「ならいいが…」
「…?」
「それ食べたら、もう…跡部さんのところに行くなよ?」
「うん!もちろんだよ!」
なんで日吉くんが跡部部長のところに行かせようとしないのかよくわからないけど、日吉くんにお菓子をもらえただけでもう大満足だよ!
「じゃあ日吉くん、Trick or Treatって言ってないけど…濡れ煎餅くれたから、もっとお菓子あげるね!」
「…ああ、ありがとう」
20111115 - 前サイトにて掲載
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