「あ!」
柳くん発見!
「柳くーん!」
「苗字…」
私が早速声をかけると柳くんは立ち止まってくれたので、柳くんの所へ駆け寄る。
すると、柳くんは少しだけ申し訳なさそうな顔をしながら、私を見てきた。
「すまない、苗字」
「え?」
「お前の言いたいことはもうわかっている。だが、生憎今日は菓子を持ち合わせていないんだ」
さすが柳くん、私が何を言うか予想しちゃったんだ…なんか先に謝るとか柳くんらしいなぁ…
「さぁ、いたずらしていいぞ」
「はぁ?」
思わず、声に出して言ってしまった…いたずらしていいぞって…そんな堂々と言う事なの?
予想外の言葉に思わず戸惑ってしまう。
「苗字が言いたかったのはTrick or Treat……だろう?」
「うん、そうだけど」
「だが俺は菓子を持っていないから苗字に菓子をあげることはできない。Trick…つまりいたずらをされる、という選択肢しか俺にはないだろう?」
またもや柳くんの口から聞こえた予想外の発言に驚くしかなかった。だってこんな展開になるなんて考えるわけないじゃない!
「さぁ、どうする?」
これからいたずらされるのは柳くんなのに、柳くんはとても楽しそうに笑っている。なんなの、これ。今からいたずらするのは私だよ?
私は覚悟を決めた。
「それじゃあ、遠慮なくいたずらしちゃうからね!」
お菓子の入ったバスケットを床に置き、とりあえずどんな人もこれには弱いだろうと思いながら柳くんの脇腹目掛けて手を伸ばすと、柳くんはすっと腕を上げてくれた。おいおい、いたずらされる気満々じゃない…これっていたずらする意味、ある…?
「………………」
「………アレ?」
「フッ、」
「えっ、あれ、なんで効かないの!?」
私が咄嗟に思い付いたいたずらは「柳くんの脇腹をくすぐる事」だった。大抵の人は弱いのに、アレ、なんでこんなに普通なの?
柳くんってもしかして神経が…
「…苗字、今良からぬ事を考えていただろう」
「!?…っ、そ、そんなことないよ!というか、なんで、普通にしてるの?何ともないの!?」
「残念だったな。俺にくすぐりは効かないぞ」
そんな…!やっぱり柳くんは一筋縄ではいかないのか…
「もう少し考えればよかったな…って…え、柳、くん?」
柳くんの脇腹にあった私の両腕はいつの間にか、柳くんにがっしりと掴まれていた。
柳くんがこの状態のままずいっと押して来るものだからそのまま私も後ずさると、壁にトン、と背中がぶつかってしまった。そして私の両腕は掴まれたまま顔の横に押し付けられた。
「え、柳くん…どうしたの…」
「Trick or Treat?」
「っ、」
柳くんが私の耳元に顔を寄せて囁いてきたものだから、身体がびくりと震えてしまう。
「お、お菓子なら、そこにあるっ…」
「今、苗字の手元にはないだろう?それなら、持っていないのと同じだ」
「ちょっと待って何それ!!意味わかんない…!柳くんが離してくれればあげるよ!」
「フッ、それは残念だ。この手を離す気は毛頭ないからな…お菓子を俺に渡すことは出来ないぞ」
おかしい!!!こんなの、おかしいよ!そしたら私はこのまま、
「苗字にもいたずらしてやらないと…な?」
ほら、やっぱり!
柳くんはいかにも残念そうな感じに言ってるけど、絶対違う!
「さしずめ、先程苗字は俺の神経が麻痺しているとか、鈍いとか、そんなことを考えていたのだろう…違うか?」
「ひ、ぁ、ごめんな、さいっ…!」
「それなら、苗字はどうなんだ?いたずらついでに俺が調べてやろう」
そう言って柳くんは私の耳たぶをねっとりと舐め上げ、かぷりと噛んできた。
「ひぃっ!や、やだ、柳くん!」
「ほう、苗字は耳が敏感なのか」
「や、あっ、」
「苗字の反応が、楽しみだな」
柳くんを探しに来た真田くんが私達を見つけるまで続いた柳くんによるいたずらの内容なんて、口が裂けても言えないのであった。
20111115 - 前サイトにて掲載
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