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昼下がりの社長室。
ブラインド越しに洩れる穏やかな光とは対照的に、漆原社長は今、物凄く不機嫌だ。

私は持参した書類とタブレットを一旦机に置くと、壁際のコーヒーメーカーに向かい、熱いブラックコーヒーを入れた。

「社長、どうぞ」

「あぁ。ありがとう」

香りを嗅ぎながら一口飲むと、社長の眉間のシワが少し緩んだ。

「難しい顔をされて、何かございましたか?」

「あぁ、いや…すまない。顔に出ていたか」

そう言いながら、漆原社長は少しバツが悪そうに頭を掻いた。

「昼に会長とメシを食ったんだが…」

“会長“とは社長のお祖父様のことだ。

現役時代は厳しい方だったと聞いているが(私の入社前のことなので詳しくはわからない)、今は穏やかで孫である社長を気にかける優しいおじいちゃまという印象だ。

「勝手に令嬢を連れてきていてね。婚約相手にどうかなんて言うもんだから…」

「あら…。怒って帰ってきちゃったんですか?」

「いや、穏便に断ってきた」

こういう所で冷静に対処できるのが、漆原社長が若くして社長たる所以なのだろう。

「穏便に断れたなら、問題ないのでは?」

「既にこれで5人目なんだ」

「え…?」

「最近メシを食うたびに違う令嬢を連れてきていてね。会長はどうしても俺の身を固めたいらしい」

困った顔でそう溜息をつく社長に、私は思わず笑いそうになり、口元を押さえた。

仕事では強引に周囲を巻き込んでいく社長が、お祖父様には振り回されているなんて。

社長でも勝てない人が世の中にいるのね。
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