おれんじキャンディー

『めんどくせぇなー…』

黒装束に身を包んだ俺は一体どう見えるんだろう。

はぁー…。

内心溜め息が零れた。

事の発端はアカデミー主催の毎年行われる文化祭。

それに綱手様が乗っかってきて、里を上げての文化祭に規模が拡大しちまった。

あとはもう日頃の任務のストレスからかイイ年の大人達がわんさか企画を上げての大騒ぎ…らしい。

俺たち特別上忍の一部は広報という名の宣伝係に任命された。

一応里中に宣伝を兼ねてビラを配ろうってことになったんだが、誰が言い出したんだか今日はハロウィンだから仮装しろって話になったんだっけ。
魔法使いにしましょうだとか言いながら黒装束を渡されて着てみると、暗部みたいだなあってイズモとコテツが大爆笑。

あー…くそ。うっせぇな。

ムカついたから、てめぇらもだろっていいながら、奴等にはカボチャの被り物渡しといた。

固まってたな。ざまぁみろ。

で、結局俺は黒装束で魔法使いになって予告のビラ配り。
シズネの提案で丁寧にキャンディの籠まで持たされちまった。

だけど、提案は聞いといて良かった。

里を歩いてたらアカデミーの子供が寄るわ来るわ。

言われたのは勿論
『トリックオアトリート!』
言われる度にキャンディを配ると騒ぎ回る子供たち…
まぁ…これはこれで良かったのかもな。

今日何回聞いたかわかんねえ言葉でキャンディの籠が空っぽになった頃にはすっかり日が傾いていた。

疲労感を引きずったまま帰ろうとしていたら、呼び止められた。
『ゲンマさん…?』

聞き覚えのある声。
忘れる筈のない…声。
振り替えれば、俺の元部下だった彼女が立っていた。

前に会った時より随分髪が伸びていて…。
それだけじゃない。綺麗に、なっていた。
少しパーマがかった栗色のロングヘアから目が離せない。

こいつは今は医療忍術の勉強をするためにシズネについてる…筈だ。
いや、筈じゃない。
気になって聞いたからきちんと知ってる。
何で今なんだよ。忘れようとしてたのによ。

そんな心境を知るはずもない彼女は続ける。
『どうしたんですかその格好…っあ、もしかして今度の…』

苦笑しながら言葉を変えた。どうやら、予想はできたらしい。

『そ、今度の文化祭の宣伝』

苦笑いに答えながらビラを渡しながら、ふ、と。

こいつはどうなんだろうって聞いてみた。

俺が今日1日聞いてきたセリフ。

『とりっくおあとりーと?』

あっ…今日ハロウィンでしたね。と言いながらポケットを探る彼女。

はい、どうぞ…と笑顔で渡されたのは、一粒のオレンジキャンディ。

こいつ、持ってたのかよ…。

不思議と沸いてくるのは、何となく残念な気持ち。

あー…っ…くそ。

今までずっと自分の感情を消したフリしてたけどな。

こいつを諦めるとか…やっぱ無理だわ。

ありがとうとオレンジ色のキャンディを受け取りながらそっと近づいて耳元で囁く。

『俺は悪戯でもよかったんだけどな』

その言葉で真っ赤になった彼女は突然、シズネさまに用事があるからとしどろもどろな言い訳をしながら走り去っていった。

その背中をニヤニヤと笑いながら見つめる。
これ以上は俺の気持ちも隠さないことに決めたから。
なあ、これからだぜ、なんて誰にいう訳でもなく一人呟いた言葉は夜に近づいている夕闇に消えていった。

(その時の真っ赤な君が忘れられなくて。愛おしくて。絶対俺のものにしてやるんだって思ったんだ)

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