とりっくおあとりーと

≪今年はアカデミーの文化祭を里全体で行う!≫

そう綱手様が指示した場に居た俺は、シズネさん共々ぽかんとしていた。

上忍も下忍も関係なく交流するのが目的…らしいが、本当の所は火影が公に博打に出掛けるための口実、だろ。
慌てたシズネさんが止めようとしたけど一足遅くて、既に里の忍者達に知らせが回りきっていた。

呆れた顔したトントンが綱手様を見、シズネさんを見上げてた。
飼い主様の事まで考えなきゃなんねぇなんて、お前も大変なんだな、トントン。

めんどくせぇことになる前に退散しようとした…が、そこは流石綱手様と言うべきか。
俺はその場で企画構成係の一員になるよう命じられた。

ひきつった顔で火影室を出て大きく息を吐く。

…あー…めんどくせぇ…。

そっからはマジで大変だった。

綱手様が里中の忍に企画持ち込めって煽るもんだから、日頃の鬱憤を晴らすかのように大量の企画書が持ち寄られた。
捌くのだけでも何日かかんだよって量。

まぁ、だからか知らねえけど企画構成担当には里のキレものばかり。抜け目がない。

そこまでしてサボリたいんすか…。

お陰で部屋にこもって書類と睨み合いが終わらない。
殺気だった雰囲気すら感じる中、カカシさんが気を効かせてこっそり、[途中で抜けていいヨ]なんて言ってくれたが…
帰れる雰囲気じゃねぇなこりゃ。

無言で首を横に振ると察してくれたのか、苦笑いを浮かべながら自らの業務に戻る。

全体がやっと一息ついた頃、一旦休憩にしようというライドウさんの声が響き全員が頷いた。

外の風でも浴びようと企画会議室を出ると明るかった筈の空がもう見えなくなっていた。

何時間経ったんだって思いながら足は自然と屋上へ向かう。

と、そこには先客がいた。

引き返そうとしたが、
『あれ?シカマル?』

気づいた向こうから声を掛けられて、再び足は屋上へ。

何やってんだ?って聞けば休憩中なんて答えが返ってきた。

まさかこいつと考えることが同じだとは思わなかった。

もしかしてアタシ、邪魔?なんて言われちまったから、何言ってんだって否定する。

少しほっとした顔をした彼女に内心クエスチョンマークを浮かべながら隣に並ぶ。

何となく気が緩むなって少しの笑いを浮かべていたら、小さく『あ』って声がした。
声の主は勿論、隣。

『ねぇ、シカマル。
とりっくおあとりーと?』

一瞬虚をつかれた気がしたけど、ああ、今日はハロウィンだったのかと思い直す。

悪いけど、俺は何も持ってねえぞ。

そう答える前に
『お菓子くれなきゃ…イタズラ、していい?』
なんて不可思議な言葉が続いていた。

イタズラしていい?なんて聞かねえだろ、普通。

そんな俺の想いも露知らず、屈託のない笑顔を浮かべて突然右手を掴まれて、手のひらを握られる。

握られた手のひらがやけに暖かい。

そのまま何かを握らされて、また手を離された。

名残惜しかったのは、俺の気のせいだろうか。

疲れた時には甘いもの!アタシはもう休憩時間終わるからまたね、って走り去っていった彼女を少し呆けて見送った。

隣にあった温もりが消えただけなのに、やけに寒い気がした。

握られた手を再び開いてみれば、チョコレート味のキャンデー。

包みをほどいて口に運ぶ。

くっそ、甘ぇなぁ…。

それから何度も右の手のひらを閉じたり開いたりしてみる。

握られた手のひらの温もりを思い出すと動悸がする、気がした。

何だ、これ。

しゃがみこんで、恐らく甘ったるいであろう息を吐く。大きく。

ああ…我ながら本当にめんどくせぇよな…何やってんだよ。

答えはもう出ている。
アイツに王手をかけられて、俺に残されたのは…投了?

気がつけば休憩時間が終わるまで、地面と睨み合いながら、この感情の正体とこれからに対策を練っていた。

(めんどくせぇことに、俺はアイツに気があるらしい。
ただし。
王手をかけられて、黙ってるだけの俺だと思うなよ?)

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