「……ん……」


目を開けたら、白い天井が目に入った。


「ぁ……れ、……」


ぼーっとする頭を無理に動かして現状を確認する。

辺りにある医療器具からして病院の可能性が高い。

……が、医師が居る気配もしない。

となると何処かの医務室か。

しかし、何故私はここに居るのか。

確か、子供が道路に飛び出してしまって、車が来ていて、咄嗟に飛び出してしまって、次の瞬間には激痛が身体に走り、そのまま意識を飛ばした、筈だ。

ということは、だ。


「誰かが運んでくれた?」



直感的に、まずいと思った。

それが一般人であったら、私の素性を知る人間に狙われる可能性があるし、裏の人間であったら更にまずい。

ちっ、と舌打ちをしてからベッドから下りた。

ご丁寧にベッドの横には私が履いていたハイヒールが用意されていた。


「っ……」


ハイヒールを履き、立った瞬間、体中に痛みが走り、思わず地面にしゃがみ込んでしまう。

その時、ドアが開く。


「…っ、大丈夫か?!」


急いで駆け寄ってくるその人。
 
痛む体に鞭を打ってその人の顔を見る。


「………う、そ…っ、」


蜂蜜色の髪の毛、

蜂蜜色の瞳、

まるで、彼みたいだと、思った。


「大丈夫、?」

「っ……
 …はい、大丈夫です。
 ……あの、失礼ですが、貴方は?」



心なしか声が震えた気がした。

違っていて、と。

でも、違わないで、と。

心が真逆のことを言っている。

「俺は……
 沢田綱吉、っていうんだけど……」

「沢田、綱吉…さん、
 あ、すみません。
 私、岸部泉って言います」

「えぇと…泉さん?
 君、日本人?」

「あ、はい。
 助けていただいてありがとうございました。」

「いや……
 男の子の方は無傷でしたよ」

「そうですか……よかった」


安堵の溜め息が出た。

よかった。
 
あの子が助かって。
 
彼はごめんね、と言って私の膝裏に手を通して背中に反対の手を添え、軽く肩を腕を掴むとそのまま抱き上げた。


「っ…(何だ、この軽さ……)」

「ふぇっ…!?
 あ、あのっ…私、大丈夫ですよ、?」

「まだ身体、痛いでしょう?
 あんまり無理しちゃダメです。
 医者にも少なくとも2週間は絶対安静だと言っていたし、」

「確かに痛いですけど……
 でも、動けないわけではないですし、」


そっとベッドの淵に腰かけさせてくれた沢田さん。

ありがとう、と笑ってお礼を言って彼を見ると、彼は止まっていた。

その頬は少し、赤くなっている。


「(今のは…やばい、だろ……)」

「どうか、なされました?」

「いや……なんでも、ない」


ふるふる、と首を振る沢田さんに疑問を持ちながらもそうですか、と口を閉じた。

何だかこの人に心を解放しそうになる。

でも、それはしてはいけないことで。


ギュッと服の裾を握った。










鼓動を打ち始める心臓

(心を開いちゃいけない。)
(同じことを繰り返すだけと分かっていても、心はどんどん開いていく。)





 

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