「どうぞ、」
私が降りるときに私よりも先に降りてドアを開けてくれる、彼。
どうやら結構やり慣れているようで、まぁこのお屋敷に住んでるのだからそれなりにそういう経験はあるのだろう。
降りた後に感謝を込めて礼をしたら、頭をなでなでされました。
そんな年齢じゃないんだけど…あ、そっか、この容姿だもんね。
「ここが俺の家なんだ。
君にはここでメイドをやってもらうんだけど……ただ、ちょっとっていうかかなり大変なんだよね……」
そういって苦笑いをした彼は屋敷に目を移す。
私もここまで大きな屋敷は見たことないけれど、どう考えても大変そうだ。
『いいえ、大丈夫ですよ。
雇っていただけるだけで十分です。』
「そっか……取り敢えず、今の時間帯だったら皆仕事に出かけるだろうから、紹介は後でにして……
ぁ、名前聞いてなかったね。」
『あ、すみません。
私、岸部 泉と申します。』
「泉?
俺、沢田綱吉っていうんだ、よろしくね」
『よろしくお願いします、沢田様』
そう言って軽く笑うと彼はびっくりしたように目を見開いた。
何か変な事言ったかなぁ、なんて考えていると再び頭を優しく撫でられた。
「綱吉でいいよ、泉。
様は要らないから。」
『いえ、でも、メイドですし、主人を呼び捨てにするなんてできませんよ』
「いいから!これ命令ね?」
何気に強情?
沢田様、じゃなくて綱吉の意外な一面を見た気がする。
優しいばかりだと思ってたから、ちょっとだけ意外だった。
軽く首を縦に振れば、また頭を優しく撫でられた。
そのまま手をつながれて、屋敷の中へ入っていくと数名のメイドが待機していて、
おかえりなさいませ、と声を揃えて礼をした。
「綱吉さまぁっ、お帰りなさいませっ」
「うん、ただいま」
「……綱吉さまぁ?
その女性はどなたですか?」
「ぁ、泉のこと?
これからここで働くことになった子だから、よろしくね。」
その言葉に皆が一斉にこちらを向いて、睨みつけてくる。
殺気がダダ漏れだけど大して怖くないから無視しよう。
というか、なんでこんなに猫撫で声が聞こえるんだろうか。
皆綱吉に猫撫で声で話して、綱吉可哀想…
「……瑞希、居る?」
「はい、沢田様。
なんでしょうか。」
そんな中、綱吉が声をかけた瑞希って人は事務的に、猫撫で声なんか出さず、その綺麗な声のままで答えた。
瑞希さんは一歩前へ出て、綱吉の前に立つ。
「泉のこと、お願いしていいかな。
泉、この女性は瑞希って言って、後で紹介するんだけど山本ってやつの専属メイド」
「分かりました、泉、よろしくお願いしますね。」
『はい、よろしくお願いします。』
急いでメモ帳に書き込んで見せたら、眉を顰めて、綱吉に話せないのか、と問いかけていた。
それに笑ってうん、と答えた綱吉。
「え〜でもぉ綱吉さまぁ?
喋れないやつなんてぇ、使えないですよぉ。」
「大丈夫、少なくとも君に迷惑をかけることはないよ。」
「何でですかぁ?
これから私達ぃ、一緒に働くんですよぉ?」
「泉は俺の専属メイドになるから、大丈夫。
あ、ファル、悪いけど降りてね。」
笑いながらそう言い放った、綱吉。
それを言われた、ファルっていう先程から猫撫で声で喋っていた人の顔が一気に青褪めていく。
そしてそのまま綱吉に縋りついて必死にお願いしていた。
降ろさないで、お願いしますって。
綱吉はにこにこ笑いながら何も言わずにただ冷たい目で見つめていて、なんだかファルって人が可哀想に見えてきた。
「兎に角ファルは降りて、専属には泉がなるからね。
瑞希着いてきて。
…あ、それから、泉に手出したらお前ら全員出てけよ」
最後の言葉は聞こえなかったけど、とりあえず私の専属は確定したみたいです。
…あれ、どうして他のメイドの顔が青ざめてるんだろう。
なんて考えていたら手を引っ張られて、奥へと連れてかれた。
少し早足で、私にはちょっと大変だったけど、瑞希さんは後ろを静かに、音をたてずについてくる。
「はい、ここが泉の部屋ね。
隣が俺の部屋だから何かあったら来ていいよ。」
見せられた部屋は簡易キッチンとバスルームが付いた、ものすごく大きい部屋だった。
こんな部屋をメイドである私が借りていいのだろうか、と聞くと、にっこりと笑って、いいんだよと言った。
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