彼は人通りの多い大通りへと私を連れて行くと、静かに地面へと降ろし、にっこりと暖かい笑みで笑った。


「大丈夫だった?」


その問いに、私は首を縦に振ることでしか返答できない。

彼はそのまま、何故あそこに居たのかと質問してきた。


「………」

「答えられない、かな…?」


彼は困ったような顔をして、苦笑いをした。

答えたいが、声が出ない為に答える事が出来ない私はそのもどかしさに嫌になる。

そんな時、ふと、肩にかけていたバッグが目に入った。

確か、バッグにメモ帳が入って居た筈。

急いでバッグからメモ帳を取り出してそこに文字を書き込む。


『ごめんなさい。
 私、喋れないんです』

「えっ……あ、あぁ、そうなんだ。
 えぇっと、どうしてあそこに居たのかな?」

『私、ここに来たことが無くて、道に迷ってしまったんです』

「そう……お母さんやお父さんは?」


それを聞かれた途端に、文字を書く手が止まった。


『母はいません。
 父は……父は、昨日、死にました。』

「、嫌な、事を聞いてしまったね。
 ごめん、ね」


彼は悲しそうに、そう謝ってきた。

それに首を振ってから、にっこり笑ってみせた。


「…あ、そうだ、お家は?」

『いえ、家が無いので私でも雇ってくれるような、仕事を捜します。
 この歳で雇ってくださる仕事があればいいんですけど……』

「え、家事は出来るの?」

『…?
 はい、家で良くやっていましたから、基本的な家事は出来ます。』


あの家でも出来ることは自分でやろうと思って、できる限りの事は自分でやったし、食事なんかは何を入れられるか分からなかったから、一日三食、自分で作った。

料理だって、大抵の料理は作ることが出来る。

そう答えた私に、彼は少し考える素振りを見せ、10秒後には彼は笑って告げていた。





「俺の家で、働いてくれないかな。」





驚きと共に、心臓がドクンドクンと、まるで何かを予感するように早く打っていた。








帰る場所など私にはなかった。

(けれど、彼は私に居場所を与えてくれようとしている。)
(その場所は、私にとってどんな場所になるのでしょうか?)



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