「ハァ、はぁっ……」


“お父様”の部屋から自分の部屋までは何気に離れており、走って走って、やっと着いた自分の部屋。

全速力で走ったせいか、はたまた緊張していたからかいつもならしない息切れをしていた。

急いでクローゼットに向かい、そこからトランクを2つ出す。

その中には前々から旅行に行く、と“お父様”が言っていたので、いつでも行ける様にと用意していた、服や下着等が入っていた。

取り敢えず、ざっと中を見渡して他に必要のあるものは特に無いと、そのままトランクを閉める。

再びクローゼットからコートとマフラーを取り出して羽織る。

それから机の中から財布や通帳、印鑑、小型パソコンをバッグに入れていく。

両太ももの付け根にあるホルダーに護身用の銃が二丁入っているかを確認して、荷物を持ってからドアを飛び出す。

現在時刻は AM 04:30

ダッシュで行けば、なんとか間に合うはずだ。


「う〜〜
 荷物が重いです……」


トランクは小さいとはいえ、2つあるのだ。

それに衣類など、重いものが多く入っているのだからこれを持ちながら走るのは辛いのは当然だと思う。

玄関に着くと、静かにドアを開け、周りに誰も居ないか見てからそっとドアを閉めた。



駐車場へ向かい近くに合った車、ロールスロイツに乗り家を出た。

一応、免許を取得済みだ。

免許を取る際には色々なことがあったけれども、思い出したくもない思い出である。

車を走らせながら、カーナビを弄る。

遠いところへ行く……いっそのこと、外国へでも逃げてしまおうか。


「うん、そうしましょう。」


丁度、信号が赤に変わったのでブレーキを踏んで車を止めた。

持ってきたパソコンを出してインターネットにつなげる。

早速飛行機のチケットを買おう。


「でも何処に……?
 別荘がある場所といえば、アメリカとイギリス……あぁ、たくさんありすぎて迷ってしまいます…!」


どうしようか迷っていると丁度目に入ったのは、“イタリア”という文字だった。


「……イタリア、でもいいですね」


カチカチ……と音を立ててマウスをクリックし、チケットを買う。

と、その時、赤信号が青信号に変わった。

パソコンを助手席に置き、ハンドルを握り、アクセルを踏む。

十字路の中間へ来た時。

いきなり車が止まった。

おかしい。

確かにアクセルは踏んでいるのに。

何故、止まっているの?

ふと、周りを見渡した。


「……嘘、嘘……嘘です!!!!」


辺りは、信号も人も、何もかもが停止していた。


「何なんです……これ……ッ!!!
 なんで……なんで、全部、全部、!?」


当然、答えも無く、彼女の声は停止した空間(セカイ)に消えていった。





停止した世界に、ひとりだけ。

(世界は私を嫌っているの?)
(私に幸せを、与えてください。)









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