〇It’s a corpse and ripe fruits.番外編 総士視点です 目を開いて、総士は凍りついた。 憔悴しきった一騎の寝顔が目の前にあったからだった。 眠った一騎の頭を覆うように抱き締めたまま、総士はベンチの上に横たわっていた。 時折ちらちらと覗く陽は、差すように強い。肌寒かったはずの空気は、こうして密着していると暑苦しくなるほどに温度を上げていた。 これまでの記憶を辿れば、自責の念しか湧いてこなかった。 想像だにしなかった一騎の追求が、自分を焦らせた。ただ、その先にある一騎に施した辱めに関しては、まるで夢でも見ていたかのように朧げだった。 苛立ちと共に、一気に欲望が膨れ上がった。あそこで一騎が抵抗していたら、自分は強引に一騎を同化しようと試みたのかもしれない。侵食され、痛みから咽ぶ体を押さえつけ、一騎の体を結晶へと変化させ、自分の内へと取り込む。 総士に出来ることは、その衝動を抑えながらも、その欲求に身を委ねることだった。そうしなければ、いつか本当に一騎を同化してしまう。あのときのように。 理解はされない。しかし、仕方のなかったことだった。 自分に出来たことは、せめて一騎を傷つけることがないようにと、暴走しそうになる自我に杭を打ち、僅かな快楽を与えることだけだった。 『良かったね。前から、一騎にこうして触れたかったんだもんね』 聞き覚えがありすぎて耳につく声が響く。 これは、自分の声だ。 『今更聖人ぶっても駄目だよ。昔から、そう思っていたじゃないか』 囁くように吹き込まれる悪魔の声がいやに耳につく。 しかし、辺りに漂う饐えた匂いは、総士に現実を突きつける。 たとえ挑発してきたのが一騎の方であれ、彼を脅し、組み敷き、あられもない姿を晒させたのは紛れもない自分だ。 大切な存在だった。 今日、森へと向かうところを引き止められなければ、或いは、それに気付いたのが一騎でなければ。湧き上がる同化の衝動を一時的にも押さえつけ、その場を収めることが出来たはずだった。 湧き上がってくる苦いものに、総士は目を逸らす。そうすることでしか、打ちひしがれた自分が立ち直る術はなかった。 ぐっすりと眠る一騎からそっと離れる。晒された肌には痛々しいほどに転々と鬱血が散っている。 あられもない姿で横たわる一騎に、なけなしのように拾い上げた上着をかけた。 その場に取り残される形となった一騎を、振り返ることは出来なかった。 行為に対する嫌悪、反射的に自身を庇おうとする抵抗すら抑え付け、総士の言いなりになる一騎が愛おしくて、自分の前でしか、このような姿を見せないのだという実感は、最中に呟かれる名前のように途轍もなく甘美だった。 もしかしたら、一騎も同じ感情を抱いているのではないかと、有り得ない方向へと思慮が向く。 しかし、それが事実であれ虚構であれ、総士に芽生えた感情は受け入れてはならないものだった。 ひいては友人を守るために、島と共に在ることを父親に定められている。 いつか捨て去らねばならない感情が、捨てられないほどに大きくなってしまったら。 総士にとって幸いなのは、関わりなど無いも同然だった一騎が、尚のこと自分に寄っては来なくなることだけだった。 [終] ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 実はこんな真実でしたという。 ついでに言えば、RoL以前を想定 同化現象をしなくなる(しないことを選んだ)のって、あの事件の直後に実感は出来なかったと思うんです。 同化衝動を押さえ込むってもえる。 戻る |