〇翼を手折る ※注意 パラレル 天使が持つような白い翼を持つ竜が、天に向けて咆哮を響かせる。翼と同じ、純白の自らの体を抱くように包んだかと思うと、羽を散らすように目映い光がその身を包んだ。 視界が白に覆われる。 「一騎」 見知った姿の幼なじみが、大地を踏み締めていた。 「総士」 名を呼びながら顔を上げた一騎の表情は、穏やかなものだった。 手を滴る血と、深紅に染まった瞳。一騎はその表情とは裏腹に、破壊衝動をその身に湛えている。 何も言わず差し出す腕に、総士は手の内にあったものを投げて寄越した。 礼を言いながら、一騎はそれを首にかける。 琥珀の中に紋章が刻まれているペンダントだ。 一騎にとって総士との絆であり、総士にとっては一騎が皆城家に縛られる原因でもあった。 次に瞼が開かれた時には、一騎の瞳は琥珀色に、ペンダントは暗紅色へと変化していた。 「頼む…もう、戦うな」 それは、総士の切実な願いだった。 一騎は、絶滅したはずの竜の血を身に宿している。普段は抑えられている血の力を解放することで、絶大な魔力を手にすることができる。 ただそれは、一騎を人から遠ざける力でもあった。 いつからか、竜の力を使用するときに姿形が変わるようになった。自我を保つために、一騎は一騎という器を失いかけているとも言うように。 「おまえは、ここにいてくれるだけでいい」 一騎を失うのは恐ろしい。 幼い頃、自分が拾ってきて、皆城家の養子となった一騎。 後にも先にも、友人と呼べる存在は、彼しかいない。 この感情が友人に対するものではないのだということも、薄々理解しつつあった。 「俺が、いらなくなったのか?」 しかし、総士の心情を汲むことなく、一騎は顔を歪めて言った。 「違う…おまえが必要だから、大切だから」 「なら、俺に総士を守らせてくれよ。総士を守って、死ぬ。それが俺の存在理由なんだから」 誇らしげに一騎は言う。 そのことが、総士の中に罪悪感を生み出しているなど、思いはしないのだろう。もしくは、出来ないのかもしれなかった。 いつしか、自分すら気付かなかった一騎に宿る強大な力に、父親達は目をつけた。 突然、毎日共にいた存在と離れ離れにされ……数ヶ月経過した後に戻ってきた一騎は、表情もなく、片膝を付きながら総士を若と呼んだ。 洗脳に近い催眠学習が施されたのだと知ったのは、年月が大分経ってからだった。 「駄目だ。聞き分けが悪いなら命令にするぞ!力は使うな」 「でも、若様は命を狙われて…」 「総士」 「え?」 「総士、だろう?」 「……総士」 ふと漏らした一騎の言葉を、総士は目敏く訂正させる。 一騎に昔の記憶はない。自分は総士の下僕だと、記憶を上書きされているらしい。 だから、命令した。敬語は使うな、僕のことは総士と呼べ、と。 それでも、自分の我儘であっても、一騎には昔のように総士と呼ばれたかった。 「行くぞ」 そう言って、総士は手を差し出す。 付着した血液をズボンで拭ってから、一騎は躊躇うことなくその手を取った。 掌のあたたかさに、一騎が存在していることを実感しながら、二人、きな臭く焼け焦げた森林を歩き始めた。 [終] ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 何か、病的に盲目な二人が書きたかったんだよー 戻る |