〇恋するカリー/7




その日から、一騎との関係は一変した。
正確に言うならば、自分が感じていた関係ではなくなってしまっただけのことだった。事実は何も変わってはいない。
敵の消滅を確認した後、ジークフリード・システムからログアウトをした総士は、足早に格納庫へと向かっていた。
どれほどシステムで意思や状態を共有していても、無事を自らの目で確認しなければ気が済まなかった。数週間前は仲間に対して抱いていた、そう思っていた感情が、特定の人間に向けられていたことにも現在は気付いている。
マークザイン。雪のように白いファフナー。
存在という名を持つ機体は、桁外れの性能の代償に、パイロットの同化現象を急速に進ませる。パイロットの存在を奪うことであの機体は存在しているのだ。
マークザインは一騎しか乗ることができない。それは近い将来、一騎がここからいなくなるのだと示唆しているようだった。ぞくりと、自分の辿り着いた考えに気味の悪い寒気を感じ、総士は尚のこと歩行速度を早めた。
格納庫へと到着すると、丁度、マークザインとコクピットの接続を解除している最中だった。外殻を開ければ、コクピットから生まれ落ちた一騎の姿を捉えることが出来、総士は人知れず安堵する。

「総士」

よろりと覚束ない足付きで立ち上がった一騎が、総士を認めて名前を呼んだ。こちらへ近付いてくる一騎に、無意識に後退る。

「駆け寄る元気があるなら、さっさとメディカルルームへ行って、遠見先生の診察を受けろ」

間を空けることなく言い、総士は踵を返した。背後から投げ掛けられる名を呼ぶ声には聞こえないふりをする。
パイロットは一騎だけではない、パイロットの無事を確認するのは戦闘指揮官の義務だ、というのは単なる言い訳で、気持ちを自覚してしまった今、一騎を視界に入れるのも辛かったからだった。
しかし、失いたくはない。傍にいてほしかった。
一騎がファフナーのパイロットで、自分がシステム搭乗者である限り、幸か不幸か、関係が消えて無くなることはないのだ。それは少なからず総士を安心させている要素でもあった。
会いたいが、会いたくない。相反する意思が共存することができるなど、自分は知らなかった。
ブルクを繋ぐ廊下で一人立ち止まる。壁に手を付きながら、総士はかぶりを振った。
ともかく、今迅速にしなければならないのは、パイロットの心身の健康状態の確認だ。それなのに、ブルクに残した彼はどのような表情を浮かべているのだろうかと、頭の隅で考えてしまっている。
ひんやりとした無機物特有の冷たさは、自分に冷静な思考を立ち返らせてくれているのだと暗示をかけながら、総士は仲間の待つブルクへと再び歩み始めたのだった。



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