〇恋するカリー/1




慌ただしく初夏が終わり、蝉の鳴く声にも疲れが含まれているような、そんな気さえさせるような残暑。
吐く息にさえ熱が篭る休日の昼下がり、総士はわざわざ空調の全く効いていない器屋…一騎の自宅へと招かれた。今日は一騎直々に、食事に誘われている。
結構な頻度で現れるフェストゥムに対抗すべく、半ば焦心にかられて底の見えない仕事を熟していたことは否めない。総士自身、不健康な生活になりがちであることには薄々気付いていた。
だからこそ、一騎に「倒れるぞ!」と怒鳴られたことに弁明の予知すら与えられないまま、こうして昼食をご馳走してもらうことが決定してしまったのだが。

「はい、美味いかは分からないけど……」

てきぱきと円卓に漬物を置いた後、一騎はどこか真剣な面持ちで器を差し出した。
いびつな大皿に盛られていたのは、自己主張するかのように食欲をそそるスパイスの香りを部屋全体に漂わせた、それは見慣れたメニューだった。

「カレー?」

総士の問いかけに、一騎はスプーンを口に運びながら、「鶏肉のな」と答えた。
一騎曰く、総士がアルヴィスの食堂で三色カレーの注文しているのを数度見掛けたため、好物だと思ったらしい。総士にとっては、手早く食べられるだとか、好きか嫌いかと言われれば好き、と答えるくらいのメニューであったのだが、そんな一騎の心遣いに、申し訳ないと思うのと同時に胸が熱くなった。
会話を交えることなく、淡々とカレーに手を付けていく一騎を見遣る。そう、そのとき生まれたのは、幼なじみに対する悪戯心だった。
総士は体を一騎の方に寄せると、円卓の上に行儀悪く肘を立て、雛鳥のように口を開いてカレーを催促した。

「…一騎?」

口を広げて待っていても、一向にスプーンは差し出されない。
不審に思い一騎を見遣れば、口へ運ばれるはずのスプーンを宙にさ迷わせたまま、力無く俯いてしまっていた。耳元を朱に染めている一騎をを目で捉え、恐らく影に隠れている頬も紅潮させているだろうことを考えて、総士は頭が痛くなるようだった。
一騎の手を掴み、不平を呟く間もなく無理矢理口に運ばせると、総士の咥内は辛く甘いスパイスで溢れ返った。

どうやら、一騎は自分に気があるらしい。



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