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ゆっくり目を開けると、よく知らないものばかり目に入って、自分がどこにいるのかわからなかった。けど自分の傍で眠っている歩惟を見て心から幸せを感じた。あいつがきっとここに帰してくれたんだ。そうわかった。
歩惟をゆざぶって、名前を呼ぶ。眠そうな目がゆっくりと開き、小さな手がその目をこすりゆっくりと俺を映し出す。そして大きく目を見開きぽたりと大きなしずくをこぼす。嗚呼が漏れて、苦しそうな声が出て飛びつかれる。これはこれは、熱烈な。そう思ってたらいきなり思いっきり腹を殴られてぐふっといろいろ飛び出しそうになる。お前、一応病人だぞ!というとふざけんな馬鹿!と怒られた。
「ほんとに、心臓とまるかと思ったんだから!!」
「わ、悪かった」
「なんで勝手に飛び出してくるのよ!かっこつけ!馬鹿!ドジ!」
「お、おうおう」
「またっ、また・・・・同じことになるかと思った!!」
俺も思った。あの時、お前が飛び出してきた時。もう二度とあんな後悔するもんかってそう思ったら体が勝手に動いた。そういってもきっと歩惟は納得してくれないだろう。俺がもし逆の立場なら納得しない。それでも、やっぱり俺でよかった。そっと手を伸ばしてゆっくりと歩惟の頬に振れる。
「無事で、よかった・・・・」
「それはこっちのセリフ!!」
ギュッと手を握られまっすぐ見つめられる。いろいろ話したいことはあるけど、その前に先生にちゃんと見てもらって、しっかり治してもらって。そのあとたくさん、大事なこと話そう。今話したいこともある。御幸のことなんて、ほんと今すぐ笑い話にしたいくらい。でも、お前がそういうならそれでいい。待つよ。いつまでだって、お前が生きてんだから。
それから先生が来ていろいろ検査をした。どうやら頭を強く打って血も流してるから大事にしろってすんげぇ怒られた。そんな病人の腹を殴ったやつがいるんですけどって言いたくなる。後日やってきた亮さんにはなぜか歩惟と同じように腹にチョップを入れられた。頭にやれないだろ。って言われたけどどっちにも遠慮したかった。双子たちも一緒に入ってきて俺を見て父さんって呼ばれた瞬間は涙が出た。まさかそんな風に呼ばれるとは思ってもみなくて現金だけど生きててよかったって心底思った。きっと本当の父親という意味の父さんじゃない。呼び名だけの父さん。でも今はそれでもうれしくてたまらなかった。しばらく入院生活をしてやっと退院できる日、歩惟が迎えに来た。
「お世話になりました」
「はい、お大事に。」
病院を出てそのままタクシーに乗り込んでとりあえず双子が待っている亮さんの家に向かう。今日の歩惟はとても静かだった。この前のことがウソのように。
「大事な話、今ここでしていいかな」
「お、おう」
「優夏と洋亮はあなたとの子供です。勝手に産んでごめんなさい」
「ちが、それは俺が」
「それからあの日、言えなかったこと言わせてください」
「へ?」
「いかないで。さよならしないで。一緒にいて」
あの日、倉持に言えなかった言葉。はっきりと俺のほうを見て歩惟はそう言い切った。あの日というのはきっと俺が歩惟に別れを告げた日のことだ。あの日、本当はそういいたかったと、教えてくれた。だから俺も思ってることをまっすぐ、伝えたかった。
「俺も今言いたいことがある」
「なに?」
「あの時は本当にごめん。それから子供のこと産んでくれて、育ててくれてありがとう」
「・・・・うん」
「それから好きです。優夏と洋亮のことも絶対大事にします。結婚を前提にお付き合いしてください」
「はいっ・・。」
ギュッと歩惟の手を握る。この手をもう一度握れた。それがこんなにも幸せで、苦しいなんて思いもしなかった。もう一つ大事な話があるんだ。俺がそう切り出すと歩惟は不思議そうな顔をしながら何?と聞いた。寝てる時見た、夢の話だ。真っ白な場所に自分がいて、そこには他に何もなかった。俺を呼ぶ御幸の声だけして、そして御幸だけが姿を現した。グローブもって。あいつと久しぶりにキャッチボールをした。キャッチボールをしながらあいつの秘密をいろいろ聞いた。自慢話をされた。そして最後に背中を押された。そしたら落ちていくような浮遊感を感じて目を覚ました。
「きっと、あいつが戻してくれたんだろうな」
「知ってるよ、そんなこと」
「へ?」
「私も夢で見た。御幸のこと」
「夢でなんか言ってたか?あいつ」
「御幸のこと、もう後悔しなくていいから前向けって。さよならって言われた。」
さよなら?なんで別れのセリフ?俺がそう疑問に思ってるのに気づいて歩惟は少し悩んで言葉を選ぶように話し出した。多分ね、ずっと私だけさよならできてなかったから。お葬式はいったけど、さよならはちゃんとできなかったから。倉持と別れた後も、御幸はずっと一緒にいてくれたの。悪阻がひどい時も、仕事がしんどい時も、熱が出たときも、ずっと見守ってくれてた。触れれないけど、そこにいた。いたの。たぶん、これでほんとのサヨナラ。もう二度と会えない。そういうさよならを言われたんだと思う。柚希ちゃんだけじゃなくて、私もやっとちゃんとさよならが言えた。
鳴き声が混じりだした歩惟の肩をそっと抱き寄せる。ありがとな御幸。ほんとに、歩惟がいまここにいるのはお前のおかげだよ。お前がずっと見守ってくれたからだよ。今日からはその役割は俺が引き継ぐ。多分俺はうまい言葉を知らないからケンカもするだろうし、また泣かせるかもしれない。でももうこの手は離さないし、どこの誰にも渡さない。双子の父親になるのはきっと難しい。ずっと一緒にいなかったし、亮さんのことすんげぇ慕ってるから俺のこと父親と思ってくれるか不安だ。それでも父親にずっとなれなくても、二人が幸せになれるように、全力でサポートしていく。壁にぶつかったら見守って、時にはきつい言葉もいいながら背中を押す。そんであいつらが自分の道を見つけて巣立っていくのをずっと見届ける。いつかあいつらがふとした時に、怖い顔の人ってそんな風に思い出してもらえるだけで幸せだと思う。
小さな幸せな日々を一年に一度だけお前に話に行く。その時は俺の小さな愚痴や悩みも聞いてくれよ。長生きして、3人とも見送ってからお前のとこにグローブと野球部ボールもって会いに行くから。だから、その日まで、さよならだ。
さよなら僕らの親友
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