太陽のように明るい笑顔が眩し過ぎて…。
無邪気に笑うあなたをまっすぐ見つめれないの…。
私の想いはあなたにだけ向かうのに、優しくて温かいその光は誰にでも平等に降り注ぐ。
あなたの『特別』になりたいと、願いながら過ごす片想いな日々…。
片想いデイズ
「裕介、全員揃ってるか?」
「あぁ、和さん。まだ翔吉があそこに…。おーい!翔吉ー!!置いてくぞー!」
新緑の木々が太陽の光を浴び、時折吹き抜ける風にザザッと枝葉を揺らす。
そんな高原の無人駅に降り立った四つ葉荘御一行様。
「つーか、荷物デカ過ぎんだろ。女じゃあるまいし…。」
「おい、創一!そんな言い方するもんじゃないぞ。俺達は一泊だけど、翔吉はそのまま実家に帰るんだよ。悪態ついてる暇があったら運ぶのを手伝ってやったらどうだ?」
「ふんっ。知るか。何で俺が翔吉の荷物運びをしなきゃいけないんだよ。」
都会の喧騒から抜け出し、こんな風景に身を置けば、課題や仕事に追われる日々の疲れも吹き抜ける風が流していってくれるような気分になる。
「宝来さん。ホテルから迎えの車が来るんですよね?」
「ああ。そろそろ来る時間だな。千尋はホテルに着いたら直ぐに出掛けるんだったよな?」
「はい。知人の別荘に招待されたんで…。」
「…キクさんずるい…。俺も焼き肉よりディナーの方がいい…。沙耶もそう思うでしょ?」
「えっ!?…えーっと…私は焼き肉も好きですけど…」
「何だよ文ちゃん!気配消してたと思ったら突然登場してちゃっかり沙耶ちゃんの横キープしてるし!」
「…栗巻は遠慮させて貰うが、キミなら連れていってもいいけど?」
「えっ…?…あの…」
「ちょ…ちーちゃん!どさくさに紛れて誘惑!?」
事の発端は1ヶ月前。
夕飯の買い物に出掛けた和人が、商店街の福引きで当てた1等は新緑の美しい高原への1泊旅行で。
『ペア宿泊券』ならば仕事仲間にでも譲るところだったが、当たったのは『グループ宿泊券』。
アウトドアシーズンが始まるということもあり、ホテルに併設されているコテージに宿泊し、翌日に開催されるスポーツイベントへの無料参加も出来るというもの。
「こらこら、沙耶ちゃんが困ってるだろ!それに明日のイベント参加がメインなんだから、体力使い果たさないように頼むぞ。」
「…やっぱり出るんだ…。それ…。」
「おいおい、あからさまに嫌そうだな。文太だって承知の上で参加したんだろ?」
「………ホテルのケーキバイキングに行きたかっただけ。」
「お前は相変わらず甘いもんばっかだな。和兄、安心しろよ。俺はキッチリ賞金ゲットしてやるから!」
同じ屋根の下に暮らすといえど、四つ葉荘に全員揃うという事さえ滅多に無いこのメンバーが、1人も欠けること無く此処にいるという不思議。
「おっ!さっすが創ちゃん。その無駄に鍛えた肉体は飾りじゃないって所を見せちゃう感じ!?」
「無駄ってなんだよ!つか、別に鍛えてもねーし!そう言う桜庭さんはどうなんすか!?」
「よくぞ聞いてくれたね、創一君!勿論オレらだって優勝賞金20万円ゲットしてアトリエ増築資金調達に貢献しちゃうもんねー?沙耶ちゃん♪」
「えっ!?あ…えっと……私はあんまり戦力にならなそうだけど…。」
そう。
イベントで行われる競技での優勝者にはそれぞれ賞金が用意されている。
様々な学科の学生が暮らす四つ葉荘のアトリエが手狭になっていたのはもう数年前からの事。
学生に負担をかけまいと、気遣いが先行する性分の管理人が家賃を値上げ出来るはずもなく、手狭なまま現在に至っている。
そんな時に降ってわいた旅行話は思わぬ特典付き。
久しぶりに全員揃った食卓で、『アトリエの増築代を稼ぐためにも、参加できる人は協力してくれ!』と深々と頭を下げる管理人に、不参加を申し出る者はいなかった。
「…じゃあ、イベントはキヨとサクさんに任せたから、沙耶は俺とケーキバイキングね。」
「…えーっと…さすがにそれは……」
「ふっ…紅一点。人気者は大変だね。」
「えっ?あ…の…?」
菊原の言葉に『?』な沙耶の視線の先には、清田とじゃれ合うように言い争う裕介の姿。
菊原にかけられた言葉の意味を考えながらも、つい追ってしまう彼の笑顔は相変わらず眩しいほど輝いて見える。
(あーあ。清田さんが羨ましいなぁ…。いつも何だかんだ言い争ってるけど、あの2人絶対仲良しだもん。)
喧嘩するほど仲が良いとはこの事だ。
先輩後輩というよりは兄弟のような彼らのやり取りに羨ましいような悔しいような複雑な気分になる。
(裕ちゃんは誰にでも優しいもんね…)
そう。
裕介は誰にでも平等に優しいし、誰とでも直ぐに仲良くなる。
相手が男性でも女性でも、子どもでもお年寄りでも。
勿論、沙耶にだって同じように明るく優しく接してくれるし、時には清田や翔吉とじゃれ合うようにちょっかいを出して来ることだってある。しかし、それはルームメイトとして仲良くしているに過ぎない。
きっと女友達にだって同じように接しているはず。
明るい笑顔も、肩に背中に、時には頭に『ポン』とさりげなく触れる大きくて温かい手も、『沙耶ちゃん』と呼ぶ優しい低音も…。
(私だけのものになったらいいのに…)
裕介の姿を目で追いながらそんな事を考えていた沙耶がぼんやりと立ち尽くしていると、突然ヒラヒラと振られる手の平が視線に飛び込んで来た。
「おーい!沙耶ちゃん?」
「!!」
「大丈夫?迎えの車来たよ?」
「えっ?…あっ!そっか…行くね!ありがと、翔ちゃん。」
心配そうに覗く翔吉の声に、ハッと我に返った沙耶は慌てて荷物を持ち直し、ホテルへと向かう車に乗り込んだ。
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