恋に嵐のスパイスを 

2人の関係は『友達以上恋人未満』



この距離を縮めるために必要なのは…。



勇気?



時間?



それとも、ライバル出現!?



いいえ。
今回は『ちょっとしたハプニング』



恋する2人にふりかかる嵐という名のハプニング。それは、あまーいあまーい恋のスパイス。














「沙耶!打ち上げの話聞いた!?」



背後から自分の名前を呼ぶ大好きな声にドキッと胸を高鳴らせ、後ろを振り返えれば、小走りに駆け寄ってくる無邪気な笑顔。


「裕ちゃん!?そんなに慌ててどうしたの?」



「だからさ、学祭の打ち上げの話聞いた?」



「あ、うん。一泊で温泉行くって聞いたけど…」


「で、参加する?」


「…う、うん。」


「やっりぃ!!沙耶と一泊旅行だ!!皆に自慢しちゃおーっと!!」


「きゃっ!!ちょ、ちょっと…裕ちゃん!!引っ張らないで…」



大げさにガッツポーズをしたかと思うと、右手をパシッと繋いでブンブンと前後に大きく振りながら満面の笑みで歩き出した裕介の行動に、『もう!!』と呆れた声を出してみたものの、繋がれた手の温もりと、『一緒に旅行』のフレーズに舞い上がる気持ちは沙耶も同じで。




(旅行先で他のヤツらと何かあったら困るし!)




(旅行先で他の女の子と仲良くなっちゃったら困るし!)



お互いに好意を抱いているのはわかる。でも、『彼氏』『彼女』の立ち位置では無い、この微妙な距離感。



この距離感を一気に縮める出来事が起こるのは、数日後の事…。









「んじゃ、戻るとしますか!!」


「うん。みんな待ってるしね。」


「それに…何だか雲行きも怪しくなってきたし?」


「わ…ほんとだ!さっきまであんなにいいお天気だったのに…。」


裕介の言葉に空を見上げれば、空一面に黒い雲が広がり、まだ昼過ぎだというのに、夕刻のような薄暗さに何だか心細くなる。



学園祭の打ち上げで訪れた山あいの温泉宿。
昼食のバーベキューで足りなくなった食材を調達すべく、じゃんけんに負けた2人はスーパーまでやって来ていた。

天気がいいからと、徒歩でここまで来たのはいいが、空は今にも雨が降りだしそうな雲が広がっている。



「急いだ方が良さそうだな…。沙耶、ちょっと走れる?」


「うん、大丈夫。急ご?」











パラパラと降りだした雨の中、買い物袋を提げたまま舗装されていない道を走るのは思いの外困難で。


先程から少しずつ雨の勢いも増してきている。
秋とはいえ、雨が降ると一気に冷え込む空気に、濡れた服から奪われる体温。
さらに裕介を心配させるのは、濡れた石に滑り挫いた足を引きずるように歩いている沙耶の事だ。


(これ以上は無理か…。)


圏外を示す携帯の表示は相変わらずで、人通りもない旅館までの道のりはまだまだ遠い。
止みそうに無い雨に沙耶の足を考えると、この辺りで雨宿りするしかないと、辺りを見回す。


「…おっ!今日のオレってツイてるわ。」











バケツをひっくり返したように降る豪雨に落雷。
雨に濡れた体と挫いた足。


偶然見つけた小さな小屋に身を寄せれば、風雨から逃れた安心感よりも、好きな人と密着するシチュエーションに心臓が壊れるんじゃないかと思うほどの鼓動に息苦しささえ感じる。




「…あの、さ。頼むからそんなに固くならないでくれよ…」


腕の中で顔を真っ赤にしながら小さな体を更に縮める沙耶の様子にいたたまれない気持ちになる。



「…ごっ…ごめ……」



意識しまいと思えば思うほど、その思いとは反比例してどんどん上がる一方の心拍数と緊張感。裕介の気遣いも今の沙耶には意味を持たない。

    
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