love magic 

それはまるで嵐のように…。




私の心を掻き乱す。




胸を締め付ける甘い痛みに…




持て余す切ない想いと…



眩しい幸せ…




こんな気持ちがあるなんて、あなたと出逢わなければ知らなかった…





そう…



あなたにかけられたのは甘い甘い恋の魔法。








LOVE MAGIC
















男性ばかりの、しかも大学でも有名なイケメン揃いのシェアハウスに住む事になったあの日。




地方から上京したばかりの18歳は不安でいっぱいだった。





そんな春の日からもうすぐ一年が経とうとしている。





(女の子が居ないって聞いてびっくりしたんだよね…)




暦の上ではもうすぐ春だとはいうけれど、まだまだ寒いこの季節。
リビングの窓から射す暖かい陽射しを受け、ソファに寝転ぶ沙耶が眺めるのは、四つ葉に入居した日に撮られた集合写真。



(あ、これは皆でバーベキューした時の…。何だかんだ言って四つ葉荘でのイベントの参加率って100%な気がする…)



テーブルいっぱいに広げた写真の中の数枚を拾い上げては思い出を振り返り『ふふっ…』と笑みをこぼす沙耶は、一人きりだという事を良いことに、陽当たりの良い暖かいリビングで写真の整理をしているのだが、つい写真に見入ってしまい整理どころの騒ぎではない。
ふと時計を見れば、整理を始めて既に一時間が過ぎている。




(いっけない!もうこんな時間!?早く整理しなくちゃ…。写真ってつい見入っちゃうんだよね。)



見入っていた写真から目を離し、本来の目的である整理整頓を始めるべく、先日購入したアルバムを取りに自室の扉を開けた時だ。
いつからここにあったのか、一通の封筒が扉と床の隙間から差し込まれているのに気付く。



「ん?…これって…」



宛名も差出人も書かれていない封筒を拾い中身を確認すれば、一枚の写真が入っている。
四つ葉荘の屋上で撮られたらしいその写真には、菊原の隣で彼と笑顔を交わしている自分の姿。



「菊原さんと…私…?」



普段、感情を表に出さない菊原が自分に向かって微笑んでいる事にも驚いたが、更に驚いたのはその隣で頬を染めている自分の姿。菊原に笑顔を返すその表情は余りにも幸せそうで綺麗で…。
一瞬自分だと分からない程だ。




(誰が撮ってくれたんだろ…)



幸せそうに微笑む自分の姿は誰がどう見ても『恋する乙女』。
その事を察した誰かがシャッターを押してくれたのだろう。



菊原への募る想いがこれ程までに分かりやすく表情に出ている事に赤面しながら、ふいに写真を裏返すと、右隅に書かれたメッセージと女の子のイラストが描かれている事に気付く。




「あっ…!」



『沙耶ちゃんへプレゼントだよ!文ちゃんほど上手くはないけど、なかなかの2ショットでしょ?byゆーちゃん♪』



「ふふっ…桜庭さんだったのかぁ。」



彼らしい文面と可愛らしいイラストについ笑みがこぼれる。



(って…笑ってる場合じゃないよ!私の気持ち桜庭さんにはバレバレだって事だよね?…あぁ…恥ずかしい…)




菊原と二人きりの写真を嬉しく思いながらも、自分の気持ちを知られてしまっているという恥ずかしさにカァッと頬が熱くなる。



(桜庭さんに合わせる顔ないなぁ…)




熱くなった頬をパタパタと両手で扇ぐ沙耶がはぁ…と溜め息をついたその時。



「たっだいまー!」



バタンッと勢いよく開いたドアから明るい声と共に姿を見せたのは写真を撮った張本人で。
不意討ちな桜庭の登場に、何の準備もしていなかった沙耶はただ呆然と彼を見つめるしか出来ない。



「あ、沙耶ちゃんだ……おっ!写真!気づいた!?」



そんな沙耶の様子に構わず、テーブルの上に広がる光景と沙耶が手にしている写真を見た桜庭がニコニコしながら近付いて来る。




「あ、あのっ…これ…ありがとうございました…」



「なかなかよく撮れてるだろ?この時の二人がさ、幸せオーラをビシビシ出してるもんだから、つい写真におさめたくなったんだよね。」



秘めていた自分の気持ちを写真に撮られたような感覚に恥ずかしがる沙耶を他所に、得意気な桜庭は更に言葉を続ける。

「オレ、協力しちゃるよ?他ならぬ沙耶ちゃんの恋路ですから!」



「こ、恋路って…」



「え?恋路だろ!?ちーちゃんへと続く…」



「ちょ…!大きい声で言わないでください!」


菊原の名前と恋というストレートな言葉に、慌てた沙耶が思わずガタンッとソファから立ち上がった時だ。
テーブルから落ちた数枚の写真に足を滑らせ、沙耶の体がグラリと後ろに傾く。



「きゃっ!」



バランスを崩した沙耶の手は咄嗟に近くに居た桜庭の腕を掴む。



「お…わっ!!」



「きゃっ!!」



ドサッ!



ソファを背にしていた沙耶に腕を引っ張られる形になったため、ソファに仰向けに倒れた沙耶に覆い被さるように桜庭が倒れてしまう。



「…てて…沙耶ちゃん大丈夫か?」



「すっすみません!!桜庭さんこそ大丈夫ですかっ?!」




「あ、オレは平気。つーか、今家にはオレしか居ないのに沙耶ちゃん慌てすぎ…」



「…ぅう…だ、だって…」



真っ赤に頬を染めながら、申し訳なさそうに眉を下げる沙耶の姿に、クスクスと笑う桜庭が言葉を続ける。




「心配しなくてもだいじょーぶ!他の人には言わないからさ。ま、沙耶ちゃんが千尋を見つめる熱い視線は誰がどう見ても隠しきれてないけど…」



「も、もうっ!!」




ニヒヒッといたずらっぽく笑いながら、妹をなだめるようにポンポンと頭に触れる桜庭に、小さく抗議声を上げている沙耶だが、その表情は穏やかで。



「ハハッ!ほら、返す言葉も無いだろ?!協力すっから心配しないの!」



「え…あ、はい…」



「おいおい…何だよその『信用できません』って顔は!」



「あ、バレちゃいました?」



「沙耶ちゃん、言うようになったねぇ…そんな悪い子はこうしてやるっ!!」



「えっ!?…きゃあ!!あははっ!やぁ…やめっ…くすぐったい!」




こんな風に悪ふざけをしあえるのも、いつも然り気無い気配りと優しさで接してくれる桜庭だからで。男性ばかりのシェアハウスで沙耶がうまく溶け込めているのも、彼に依る所が大きい。
そんな桜庭ならば菊原への想いを知られても悪いようにはされないだろう。寧ろ上手く立ち回って距離を縮めてくれるかもしれない。


「キャハハッ!ご、ごめんなさい!信用してますっ!信用してますからっ!あははっ!やめっ…きゃあっ!」



相変わらずふざける桜庭の擽りから逃げながら沙耶がきゃあきゃあと声を上げていると、ガチャリとリビングのドアが開いた。




    
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