snowflake 

はらはらと舞い降りるように降り続ける雪片が、その形を崩すことなく地面に重なりあい、限り無く続く白銀の世界を作り出す。





何色にも染まっていない真っ白で純粋なキミの心にも似たこの場所で、キミの眩しい笑顔に出会ったなら…。





恋に墜ちないわけがない。










snowflake











「きゃー!雪が積もってる!」



「当たり前でしょ。スキー場に来たんだから…。ね、沙耶はボード経験者だっけ?」



「ううん。スキーは何度かやったことあるけど、ボード経験はゼロ。」



「そっか。じゃあ、イケメンボーダーをつかまえて皆で教えてもらわなきゃね!!」



「はーい!賛成!沙耶可愛いからさ、『あっ!すみません!』とか言いながらちょっとぶつかってイケメングループをゲットしてきてよー。」



「えぇっ!?」



「はいはい、沙耶が可愛いのは認めるけど、アンタのベタ過ぎる手法は却下。素直にスクール入ってイケメンコーチとお近づきになった方がいいわ。」





キャハハ…と盛り上がる車内には、冬休みを利用して計画した旅行でスキー場へと向かう沙耶と2人の友人の笑顔で溢れている。




「冗談はともかく、初心者ばっかりだしとりあえずスクール入るよね?」



「だねー。明日もあるし、とりあえずリフトにも乗れなきゃイケメンボーダーにも会えないって話!」



「あははっ!結局そこ!?」



「そりゃ沙耶はいいよ?毎日イケメンに囲まれて生活してるんだからさぁ。」



「確かに!音楽科の菊原さんに絵画科の桜庭さんでしょ?それに、えーと…建築科の人もいたよね?」



「そうそう!口は悪いけど才能あるし、カッコイイって建築科の友達が言ってた!えっと…清田さんだっけ!?」



「…え?あ…う、うん!そう!清田さん。確かに口は悪いよー。」




冗談話から突然話題に上った密かに想いを寄せる彼の名前に動揺した沙耶が、つい大きな声をあげてしまう。



「そうなんだ。ね、ね、写真科の栗巻さんもいるんだよね?あの人もカッコイイよねー!」



「あー、私その人見たことないかも。」


「あとさ、彫刻科の子も可愛いって噂だよ!」



「マジで?」




動揺を悟られたのでは…という沙耶の心配をよそに、友人達はまだ四つ葉荘の話で盛り上がっている。
思いがけず清田の名前を耳にし、ドキドキと弾む鼓動を抑えるように胸に手を当てれば、思い出す四つ葉荘での彼の言葉。




『課題終わらせちまったら実家に顔出してくる。たまには顔見せねえと親父がうるせーんだよ。ついでにじいちゃんの手掛けた建物めぐりでもするかな。』



冬休みの予定が話題に上った夕食の席でそんな予定を聞いたため、彼のいない四つ葉荘に残るのも…と思い、この旅行に参加する事にしたのだ。



(清田さん何してるかな…会いたいな…)



車窓を流れる景色を見ながら彼を思う沙耶は、この数時間後にまさか本当に彼に会える事になるなんて、想像もしていなかった。













数時間後――……



「おっしゃ!天気も良いし久しぶりにガッツリ滑りますか!」



「おいおい、そんな張り切って大丈夫かよ…。清田は毎年滑ってるからいいとしても、俺はかなり久しぶりだから手加減してくれよ?」



「いや、俺も毎年滑りには来てるけど、今シーズンは初滑りだからな…。まずはこっちのコースで体慣らしてからにしねえか?」




実家に帰省した清田は地元の友人達と共にスキー場へと来ていた。
バスケットが得意な彼だが、元より運動神経が良い事からスノーボードもかなりの腕前なのだ。





ゲレンデに流れる流行りのJ-POPS。曲に合わせるように軽やかなリズムで滑る清田の姿は女子で無くても見惚れてしまう。



規則正しいシュプールを描きながら颯爽と滑り降りてきた彼がエッヂを利かせ、ザザッとそのボードにブレーキをかけて止まれば、舞い上がった雪の結晶がキラキラと太陽に輝く。



昼食を挟んだ後も時間を忘れ夢中で滑っていたため、時計を確認すれば既に3時を過ぎている。そろそろ休憩を…と友人達が滑り降りてくるのを待つ清田がゴーグルを額に上げ、ゲレンデを見遣ると、2人の友人が何やら誰かと喋りながらこちらに向かって来る。



「おーい!清田ー!!彼女達と一緒に休憩してもいいよな?」



上機嫌で手を降りながらやって来た友人の後ろには3人組の女子の姿。
その一番後ろでもう一人の友人に話しかけられている女性の姿に目を疑った。



「さっきあいつがスピード出し過ぎてこの子達の所に突っ込んじゃってさぁ…っておい、清田?」



呆然としたまま返事の無い清田に、もう一人の友人が更に声をかける。



「そうなんだよ、止まりきれなくてさ…。ホントごめんね、沙耶ちゃん… お詫びしたいし、俺らと一緒に休憩してくれるよね?」



「いえ、ちょっとぶつかっただけで、私は大丈夫ですから。お友達にも悪いですし、気にしないで……って………清田さん!?」























「まさか清田と沙耶ちゃんが同じ屋根の下で暮らしてるとはねぇ…。マジ羨ましいわ。」



「おい!誤解を招く言い方すんじゃねーよ。大体、コイツが後から勝手に入居してきたんだから…」



「いやー、沙耶ちゃんも大変でしょ?清田は見た目良いけど口悪いからねー。その点俺は優しいよ?」



「おい!人の話を無視すんな!」



(……ええっと……)




ゲレンデを後にした清田と沙耶が、互いの友人を含めた6人で休憩をしているこの状況を説明すれば、スクールでの講習を終え、休憩をしようと友人と話していた沙耶に、清田の友人の一人がボードを止めきれずぶつかってしまった事がきっかけだ。



ただ、ぶつかっただけなら『すみません』『いえいえ』で済む話だが、それで済まなかったのは、清田の友人が沙耶を気に入ってしまったからで。
ぶつかってしまったお詫びに…と誘われたカフェは、偶然にも沙耶達が宿泊するホテルの一階で、清田と沙耶が知り合いだということも手伝って、互いの友人同士もすっかり意気投合状態なのだ。



「ね、沙耶ちゃんは付き合ってる奴とかいるの?」



「えっ!?い、いませんけど…」



「マジで!?じゃあさ、俺立候補していい?立候補!」



「えぇっ!?あの…えーっと…」



「何?三輪君沙耶狙いなの?沙耶はなかなか落ちないよー。なんせイケメンばっかに囲まれて生活してるんだから。ね、沙耶!」

    
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